イヌビエとタイヌビエはきわめて識別が難しいようだ。
現状、関東の水田には3タイプのノビエ類がいるように思う。
A. イネ擬態性を示さず、葉縁は透明できわめて大型化し、穂は枝垂れて紫色の長い禾をもつ。下流域に多く、上流域にはいない
B. イネ擬態性を示さず、葉縁は透明で大型化し、穂は枝垂れて短い緑~黒色の禾をもつ。粒は小さい。上流域から中流域に多く、下流域では目立たない
C. イネ擬態性を示し、葉縁は白色肥厚し、穂は直立して短く禾はない。分布は広い。
この3者である。陸地には匍匐性のヒメイヌビエがいる。穂はCによく似ているが省略する。コヒメビエは分布的にいないし、ヒメタイヌビエはすくない(見たことはある)。
A+Bと、Cは見るからに別の植物なので、A+Bをイヌビエ、Aはケイヌビエ、Bがイヌビエ、Cはタイヌビエだと思っていた。
しかし、ネット上ではどうみてもBにしかみえないものにタイヌビエと書かれていたり、Cにしかみえないものにイヌビエと書かれていたりと混乱を極めているようである。
イヌビエとタイヌビエの識別法として「第一小花外穎が膨らむか否か」が挙げられている文献やサイトがあるようだが、これは明らかに間違いである。第一小花外穎が膨らむのはヒメタイヌビエおよびタイヌビエC型であって、イヌビエと同様なF型が存在する。F型は北日本、C型は西日本に分布する。つまりこれを識別点にすると西日本では当たっても、東日本ではまったく同定を誤ることになる。(このことは70年代から指摘され続けている)
イヌビエ(にまとめられる6倍体系統)とタイヌビエの違いは第一苞穎の長さと小穂の比。また小穂の長さとされるが、あきらかにタイヌビエではないA(これは明らかにケイヌビエ)でもこの特徴ははっきりしない。そもそも禾が邪魔で、どこまでを小穂の長さと数えていいのやらわからない。さらに、この形質はオーバーラップすることが指摘されているうえに、海外の系統ではまったくあてにならないことが知られている。
第一苞穎の長さと小穂の比をイヌビエとする基準にするならば、世間の水田に生じているイネ擬態雑草の多くがイヌビエということになる…つまりイネ擬態イヌビエがあっちこっちに多産しているということとなる。これはひじょうに気持ち悪い。
もうむしゃくしゃしてきたので表に纏めてみることにした。もう少しフィールドワークと検証が必要だろう。
タイヌビエC型
|
タイヌビエF型 |
ヒメタイヌビエ |
イヌビエ*非擬態 |
ケイヌビエ |
ヒメイヌビエ |
||
倍数性 |
4n*2 |
4n*3 |
6n*4 |
6n*5 |
6n*6 |
||
草型 |
直立性*11 |
直立性*12 |
直立性*13 |
直立性*14 |
伏性*15 |
伏性*18 |
|
生育環境 |
水田*19 |
水田*20 |
水田・湿地*25 |
||||
小穂の長さ |
3.3-5.5㎜*30 |
3.3-5.5㎜*31 |
3-3.2㎜*32 |
イヌビエに準ずる |
4㎜未満*33 |
4㎜未満*34 |
2.5~3㎜*35 |
第一苞穎の長さ/小穂長 |
0.47-0.7*36 |
0.47-0.7*37 |
0.28-0.52*38 |
イヌビエに準ずる |
0.28-0.52*39 |
0.28-0.52*40 |
0.28-0.52 |
第一苞穎の先端 |
尖型 (長い)*41 |
尖型 (長い)*42 |
鈍 (長い)*43 |
鈍 (短い)*44 |
鈍 (短い)*45 |
鈍 (短い)*46 |
鈍 (短い)*47 |
芒 |
無 |
無 稀にあり |
無 |
無 |
無~長 |
長 |
無 |
第一小花外穎 |
C型 膨らみ光沢あり |
F型 扁平で光沢無し |
C型 膨らみ光沢あり |
F型 扁平で光沢無し |
F型 扁平で光沢無し |
F型 扁平で光沢無し |
F型 扁平で光沢無し |
葉縁 |
白色肥厚部あり |
白色肥厚部あり |
無色 |
無色 |
無色 |
無色 |
|
葉身と葉鞘のなす角度 西克久, & 平野幸子. (1989). 野生ヒエの草型について (1): 単植条件下の株開度.
|
下部で開き上部で直線状に近づく |
下部で開き上部で直線状に近づく |
ほぼ直線状 |
? |
ほぼ直線状 |
ほぼ直線状 |
? |
出穂期 |
7-8月 *南方の個体ほど遅く出穂する |
7-8月 *南方の個体ほど遅く出穂する |
遅い |
8月下旬 |
7-8月 |
7-8月 |
早い |
分布 |
南日本・太平洋側*51 |
詳細不明 東京近郊の陸稲田で確認されている |
全国 |
全国 |
全国 |
||
*1:藪野友三郎. (1975). ヒエ属植物の分類と地理的分布. 雑草研究, 20(3), 97-104.
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