水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

バコパのはなし② アクアリストの知らない「金魚藻系バコパ」そして,アクアリウムの「バコパ レフレクサ」とは何だったのか.

バコパ レフレクサ…これもアクアリストの知らないバコパです.

アクアリウムではなぜか「葉が数輪生しかしないショボいバコパ・ミリオフィロイデス」のようなものがレフレクサとして扱われてきました.さらにアクアフィーチャーでは「南米のパンタナール湿原に水上型で自生している種類.水中葉はB. ミリオフィロイデスのような輪生する形状で,葉は非常に柔らかい.水上葉はB. カロリニアーナをパールグラスのサイズにしたような形態の水上葉で,咲いていた花は美しい紫色で葉(5㎜くらい)よりも大きかった.水上葉と水中葉がこれだけ異なる種類も珍しい.」

とあり,B. reflexaの性質とはどうも異なっています.

 

バコパ レフレクサ

Bacopa reflexa 

=Benjaminia reflexa

colombia.inaturalist.org

分布:南米北部~中部 

季節性の池など

 

形態

沈水~両生の水草です.葉は6~8輪生で4~26㎜,深裂し羽状複葉で,水中茎は無毛,水上茎は毛が生えます.花は葉腋に一輪ずつつき,1~2㎝の花柄で水面を突き抜けて水面に咲きます.花は白~薄紫で喉部に黄色のパッチがあり二唇形です.

 

近似種

いません.しいて言えばカボンバやミリオフィラムがあげられます.

 

アクアリウムにおいて

水中葉はオレンジ色~褐色で,オレンジミリオフィラムを小さく繊細にしたような外観をしています.

魅力的な外観からカッセルマンが導入を試みたものの,失敗しています.南米北部,季節性の水域を好むことから高光量と軟水,強烈な肥料分を好むと予想され,ドイツ式の育て方には合わなかったのではないでしょうか.

本種は水上葉も輪生の羽状複葉で,少なくとも水上葉が対性であるという記述は見当たりません.

 

 

全然違いますね.

ではほかの輪生Bacopaはどうでしょうか?

バコパ ミリオフィロイデス

Bacopa myriophylloides

分布 南米中北部

形質

水上葉は細く輪生し6~12輪生.水中葉は赤く糸状.

アクアリウムにおいて

昔から一般的な水草ですが,うまく育てた例をほとんど聞きません.腕試しにどうでしょう.本種は紅の水草です.そのポテンシャルを生かせるかどうかは腕次第.

おまけ:この葉が真に輪生しているのか,それとも掌状に裂けた輪生なのかに関しては議論の余地があるらしいです...

 

もう詳しく書く以前にミリオフィロイデスはミリオフィロイデスです.ミリオフィロイデスは語りたいことが沢山あるので以前も散々語ってきましたし,また語ることにします.次.

 

Bacopa verticillata

分布 南米広域

形質

水生,水中葉は3~5輪生で細かく分岐し,水上葉は分岐~全縁.葉は7~16㎜×1~3㎜.花は腋生で0.5㎜の花柄につき,花冠は上唇2.5~3㎜×1.5~2㎜,下唇3.2~3.8㎜×1.8~2㎜,白~淡青色,花筒3~4㎜.

 

 

特徴がかなり近いですが,本種の葉はアンブリアのように分岐し,バコパ・ミリオフィロイデスとは一見して異なります.花の色も紫ではない...

 

じゃあ,「レフレクサ」ってなんだ???

 

といったところで,普通に知られている輪生バコパのどれにも当てはまらず謎でした.

しかし2020年に新種,Bacopa llanorumが記載されていることに気づき記載を見てみることに.

 

Bacopa llanorum

分布 コロンビア~ベネズエラ

葉は二形をしめし,対性~4~6輪生.花冠は薄紫.

(残りは次の記事で!)

本種はなぜかGBIFやKewのプラントリストには記載がなく,見逃していました.

形質としてはまさに,アクアルートで知られてきた「バコパ レフレクサ」に合致しそうです.

しかし本種はあのようなバコパが採集されたパンタナルやアラグアイア流域には分布しておらず,この点で矛盾します.

本種は近縁種としてブラジルに分布するB. reptansとの共通性が大きいことが言われており,B. reptansなどに紛れてきた可能性,またはほかのBacopaにも水中葉を作ると大化けする可能性も否定できないと思いました.さらに,ブラジルの検索表では「輪生で分岐しない,3輪生以上=ミリオフィロイデス」となってしまうので,余計無視されそうです.

 

次回はこの可能性について検討し,アクアリウムにおけるバコパのさらなる可能性について語ろうと思います.

 

Scatigna, A. V., & Mota, N. F. D. O. (2017). Flora of the cangas of Serra dos Carajás, Pará, Brazil: Plantaginaceae. Rodriguésia, 68, 1077-1083.

Sosa, M. M., Moroni, P., & O’LEARY, N. A. T. A. L. Y. (2018). A taxonomic revision of the genus Bacopa (Gratioleae, Plantaginaceae) in Argentina. Phytotaxa, 336(1), 001-027.

Furtado, M. N. R., Secco, R. D. S., & Rocha, A. E. S. (2012). Synopsis of species of Lamiales Bromhead occurring in the coastal strand vegetation of Pará State, Brazil. Hoehnea, 39, 529-547.

Rangel-Ch, J. O., Minorta-Cely, V., & Castro-Lima, F. (2020). Notes on the Genus Bacopa (Plantaginaceae, Gratioleae) in the Orinoquia Region of Colombia and Venezuela. Harvard Papers in Botany, 25(2), 195-203.