水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

エゾヒルムシロ Potamogeton gramineus

(ライト版)

小型で繊細な水草で,葉は3㎝ほどが普通です.触ったら溶けそうなほど透明度の高い,細長い笹の葉状の葉を互生させます.先端付近では浮葉を出すことがしばしばあります.形態は多種多様で,他の種と交雑することも多く同定は困難です.あまりの形態の多様性から,英名がvariable pondweedというくらいです.最も特徴的な点はその小ささ,透明度,そしてほとんどの枝で枝分かれをする特徴的な分岐様式です.名前の通り北方系の水草で,本州では一部の地域でしか見られません.ヒルムシロ科の中でも水質悪化に極めて弱いことが知られており,現在高山湖に分布が限られているのは果たして暑さに弱いためか,それとも平野の水質が悪化したためか….

形態は全く似ていないものの,ガシャモクPotamogeton lucensと極めて近縁です.

両者の雑種であるツガルモクPotamogeton × angustifoliusは種子を作ることができるほどです.エゾヒルムシロの中にも葉の表面がツルツルなものから,葉の表面の凹凸がはっきりし,少しガシャモクっぽい雰囲気をもつ個体群まであります.日本ではいまや極めて珍しくなってしまったガシャモクとエゾヒルムシロですが,世界的には広く分布しありふれた種で,もしかすると互いに複雑な交雑を経てきたのではないかと思わせます.

ヒロハノエビモとの雑種(ササエビモ Potamogeton × nitens)は別に解説しようと思います.

競技水草水槽に対する批判

水草水槽の競技化が進んでいる.

世界水草レイアウトコンテスト(IAPLC),ダッチアクアリウムコンテスト…これらがアクアリウムにおける水草の地位を上げたという点では間違いない.

しかしながら,これらの真の目的は「いかに美しい水草水槽を作るか」ということであって,決して「いかに素早くイメージ通りにレイアウトするか」ではない.

水草「レイアウト」がこれらのコンテストを介して飛躍的に発展したのは間違いない.しかしながら,コンテストはあくまでも「その瞬間の美」を求めるものであって,インテリアとして,趣味としての水草水槽を求めたものではない.つまりあれを例えるならば,「モデルルームをいかに作るかのコンテスト」であって,「実際に住む住居を作るコンテスト」ではない.つまり,実際に作るうえでの実用性に欠けるものであっても斬新性があれば評価される.結果として,維持することを必ずしも目的としない一時的・即席な栽培技術や工作力が問われるコンテストとなっている.これを”競技水草水槽”と呼ぼうと思う.

なお,ダッチアクアリウムコンテストはまた違う観点に基づいて評価されている.これは厳密な規則に基づいて採点される.これはまさしく競技というか,実力試験というか.但しその基準の性質から日本の住居環境には絶望的に向いておらず,結果として日本での普及には失敗した.

さて,どちらにしてもコンテストとして洗練された結果,一般に広まるだけの柔軟性を欠いてしまったように思われる.

たとえるならばF1マシンやスーパーカーのようなもので,普通の人が普通に楽しむためのものからはもはや,乖離してしまった.

現在水草レイアウトコンテストで主流のソイル単用栽培法では”ソイルの寿命”なるものによって毎年のように,場合によっては半年に一回リセットすることが”必要”かのように扱われている.これはいわば,燃料をドカ食いするF1マシンみたいなものであって,結果を出す以上の航続距離は求められていないということに他ならない.

こうした”消費的”かつ”非持続的”なスタイルの水草水槽だけが主流となり,それ以外の方法が廃れているのが現在の水草を取り巻く状況である.

このような浪費に少数のコンテスト出品者ないし,それを目指す多くの人がバカスカお金をつぎ込んでつきあってくれるのならば,短期的に業界は潤うかもしれない.

しかしそれでは絶対に水草水槽は広がらないし,そんな業界に未来はない.

少し考えれば当然のことだ.

 

水草レイアウト水槽というのは,インテリアである.インテリアというのは,いつもそこにある存在であるし,そうでなければならない.つまり簡単に崩壊して,見苦しい状態に「なってはいけない」ものである.

アクアリウムというのは,趣味である.趣味というのは,義務ではない.つまり,続ける余裕がなくなったならば簡単に切り捨てられるものである.毎日管理「しなければ崩壊する」のであれば,それはもはや趣味ではなく職務である.

アクアリウムショップというのは,夢を売る商売である.その夢は,「私にもこんな水槽が作れたら」というものである.しかしその夢があまりにも儚く,一瞬で崩れてリカバー不能になるのであれば,それはもはや夢ではなく幻である.

アクアリウム業界というのは,アクアリウムを楽しむ人々の集合体である.集合体を維持するには,互いに助け合うことが必要である.初心者を様々な製品で惑わし,他の道がないように見せかけ,多額の金を巻き上げて搾取するのならば,その集合体は先細りの運命をたどるだけである.

 

水草レイアウトは沢山ある.いくらでも作りようがある.

しかし明確なゴールは一つしかない.それは「美しい」ということである.

逆に言えば「自分や家族,もしいれば観客にとって,美しい」のであれば,コンテストの順位が何番であれ,いつのコンテストであれ,それは完成の域に達しているのであり,だれにも咎められるものではない.

つまり,「うちにも水草水槽を置いてみたい」という方にとって求められるのは「納期に完璧に仕上がるがその後崩壊する」水草水槽とは決して同じではない筈だ.むしろ「今日もそこそこに綺麗だ.でもコンテストの写真集みるとあこがれちゃうなあ,あんな凄いものを作るプロってやっぱりすごいよね」という状況が長く続いた方が,ずっと好印象だろうし,ショップやレイアウターのプライドも保たれる.

 

さて,ここまで読んできた読者は「こいつADA批判を展開しているな」と思っているかと思う.しかしながら私はADAをむしろ好意的にとらえている.高額だろうがブランド主義だろうがなんだろうが,やはり世界一の水草用品メーカーはADAであると断言する.

なぜならば,ADAこそが上記に挙げたような「持続的で”いつも楽しめる”水草水槽」に対して最も真剣に取り組んでいる会社だからである.

天野尚が生前のころ,アクアジャーナルには「時間とともに陽性水草主体から陰性水草主体に移ろいかわる,時間の経過を楽しむ」だとか「侘び・寂びとは時間の経過を感じられること」といった記事があふれていた.

さらにいえば知る限り(ここ最近どうだかは知らないが)ADA自体は「水草水槽は一年草です.毎年ソイルを総とっかえしてリセットしましょう」とは言っていない.ADAは「パワーサンドやバクタ―100を使って底床内に生態系を作りましょう」と言っているのであって,「当社の製品を毎年使い捨てにして焼き畑農業をしましょう」と主張しているわけではないのである.

もっという.ADAは創業当初からパワーサンドを用いてきたし,今もそうである.水草を抜き差ししたりするとパワーサンドが露出して美観を損ねるだとか,下に敷いたパワーサンドが目立つとか,養分が最初に溶出して最初大変だとかは,百も承知なのである.このように「デザイン」を主張するADAが「デザイン性に欠ける」パワーサンドをなぜ売り続けるのか,それはひとえに,「水草水槽の刹那の美を,ご家庭でも長く楽しむため」なのである.レイアウトコンテストに出品する「だけ」の時間ならば,パワーサンドなどトラブルを生み出すだけだ.しかしネイチャーアクアリウムとは,ただの芸術作品ではない.生命を維持しながら室内で楽しむ,「生きている」「小さな自然」なのである.

大事なことなのでもう一度.

ネイチャーアクアリウム」は「生きている小さな自然」なのである.

それは絶対に枯れることが決まっている生け花ではないし,そうであってはならない.

ソイルの寿命問題?ADAは陰性水草と陽性水草を織り交ぜる(遷移によってその時々に適した植物が見ごろを迎える)ことや,パワーサンドをはじめとした独自の底床システムを用いて水槽を”生き物”として扱いこなすことによってもうとっくの昔に解決している.

天野尚が水草を扱う「天才」だったことは疑いようがない.その栽培技術は今の視点からみても驚愕すべきものである.完璧な構図に完璧な状態の水草が生い茂っている.圧倒的だ.その技術の粋がADAの製品群であることは間違いない.ADA一強の中,たとえば「大磯砂で水草は無理」かのように言われがちだし思われがちだが,天野自身は大磯砂+パワーサンドで水草を完璧に仕上げられる力量を持っていた.天野は大磯砂だろうがソイルだろうが,底床の根本的な材質がなんであれ特に水草を育てることに苦労していなかった.

それなのに後年はソイルを用いていたのはやはり「誰でもやりやすい,再現しやすい」方向への歩み寄りだったのではないか.「自分にしかできない」神業と,微妙な感覚に基づくフィードバックは口伝するのが難しく,広がらずにいずれ廃れるからそうしたのではないかという推測をしている.

 

そういう点から見て競技水草水槽はもはや,天野尚が提唱したネイチャーアクアリウムからは逸脱している.

IAPLCはネイチャーアクアリウムの「”ファッションショー”」なのであって,それらはネイチャーアクアリウムを作るための「プロトタイプ」でしかない.IAPLCをもとに,そういうイメージを持った水槽を家に置きたい,いつまでも眺めていたい…そういう純朴な考えを裏切るようであっては,水草業界の未来は暗いだろう.

イトイバラモvsトリゲモ

サイズ,生える場所,葉鞘の形状ともそっくりなんですが,種子を見ると一目瞭然です.横方向の枠がありざらつくのがトリゲモ,まっすぐで短くツヤツヤなのがイトイバラモです.また,種子がトリゲモの方が少し長くカーブします.イトイバラモは葉基部に1~2つずつ種がつき,タネを付けながらも成長を続けますが,トリゲモは基本的に1個,一年草傾向が強いのか,先端付近にタネばかり付けて終わる様子がよく見られます.イトイバラモの方が柔らかいので,水から出してパリッと立ってるのはトリゲモです.


滅茶苦茶似ているんですが,

Rotala indica(アクアフルールの”ロタラ インディカ”はロタラspボンサイではないし,キカシグサでもないし,ロトンジフォリアでもない!)

でかい!立ち性!

頂芽はまあ普通に見える

茎は明らかに四稜形

アクアフルールのカタログにRotala indicaがあったのは以前から把握していたが,妙に茎が緑色で立ち性というのが違和感があった.そして遂に日本初上陸を果たしたので,入手しました.

やばい,これはやばいですよ.

直感的に違う.そして前から探し求めていたタイプに見える.

キカシグサっぽい草姿なんですが,立ち性で明らかに茎が四角い.雰囲気が全然違う.

以前からインドやタイのR. indicaとされる写真には茎が四角くて立ち性のものがあるなあとは思っていたのです.(つまりR. roseaとの中間みたいなやつです)葉は丸葉なのに開花期になると短い葉先のとがった側枝を出し,ここに花を密生させるのです.同様の記述は中山(1992)にも”上海キカシグサ”としてあって,未解決問題の一つかもしれません.(”R. pendantora"は酷い誤植で,おそらくR. pentandraと思われ,これはR. roseaのシノニムです.)

このタイプの「インディカ」はかつてのアクアジャーナルに登場していたりします(真のインディカを求めて,だったっけな).これを見ただいぶ前の自分は…「これもキカシグサじゃないじゃん,プークスクスクスクスw」となっていたのですが,少なくとも10年くらい前にはヨーロッパにこのタイプがインドから入っていたと考えられます.それがフルールに流れたんでしょうか.興味は深まるばかりですね.

さらにこの謎を追い求めるべく...

Caulis adscendens semipedalis et ultra tetragonous glaber. Folia opposita oblonga obovata subretusa integerrima vonosa glabra. Spicae simplicesfollis longiores ex omnibus axillis. Flores sessiles oppositi bractea lanceolata flore duplo longiore suffulti. Calyx campanulatus ocyodentatus, dentibus alternis minoribus. Petala nulla vidi. Stamina quatuor. Stylus filiformis. Stigma capitatum. 

また面白いものをみつけてしまいました.ぐへへ.

 

 

中山治彦. (1992). 中国の雑草 (1): 日本産雑草との比較.

Potamogeton lucens var. teganumensis

Potamogeton lucens var. teganumensis

Stem attaining about 2m, or more in length, many-branched; branches more slender, 1-1.5mm, across, Leaves smaller, oblong to oblong-lanceolate, obtuse or acute with a cuspidate point at the apex, acute or subobtuse at the base, 3-nerved on each side often with a few accessory nerves, serrulate on margin, translucent, about 4-14cm long, 11/3-21/3cm broad; petiole 2-5mm long; stipule 11/2-4cm long. Peduncle about 8cm. long, 3mm, in diameter. Spike smaller, almost 4 1/2cm long and 5-6mm, across in fruit. flower smaller, about 4mm across. Perianth-lobes about 12/3mm long. Achene smaller, about 2mm long exclusive of the short beak. 

Nom. Jap. Gasha-moku, Chakkara-moku.

Hab, Prov. Shimoosa: Lake Teganuma(K.. K. Yamadzuta! Aug. 1904, Aug. 1905; H. Nakaso! Aug. 1905). 

Smaller than the type in all respects. This is applyed to the soil as a manure by the farmers who are living by the lake.

その後1912年にP. teganumensisに変更されている.P. lucensとの違いはサイズ感であるようだ.ところでこの記述にある株は葉が非常に細長い.