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ビオトープアクアリウムのための水草解説③Oryzias minutilus

第一、第二弾は抽水、湿生植物ばかりだったので、第三弾はこれでいきましょう。

 

 

まず最も広い面積を占めているものから。

アカバスイレン Nymphaea rubraです。和名にはややブレがあり、アカバヒツジグサとよばれることもあります。また、赤花セイヨウスイレンNymphaea alba var. rubraをはじめとした赤い温帯スイレンと混同されることが多いです。アクアリウムでは「タイニムファ」と呼ばれているのが殆どこれに相当しますが、ニムファ・○○として流通する場合には流通名にはやはり混乱と問題があります。アカバスイレンをはじめとするlotos亜属は夜咲きなのですが開花時間はかなりアバウトで、昼もしばしば咲きます。

アカバスイレンの混乱を語るには、ヨーロッパにおけるスイレンの認識と改良史について語らねばならないでしょう。西洋において、最初に認識された「赤い」スイレンはこのアカバスイレンで、ヒンドスタンにて採集されイギリスで栽培されたものが記載されたのは1808年のことです。その後100年近くにわたって、西洋人の知る「赤いスイレン」はこのアカバスイレンでした。熱帯スイレンの改良は1800年代後半にスタートしており、N. caeruleaやN. capensis,N. micranthaなどをはじめとしたBrachyceras亜属、N. lotusやN. rubraなどのlotos亜属においてそれぞれ初期の改良がおこなわれました。これらの改良は、温帯スイレンの改良には30年ほど先行しています(ドウベンの作出は1864年)。スウェーデンにて採集された赤い温帯スイレンが記載されたのはようやく1857年のことですが、その性質はやや虚弱だったようで改良には手こずりました。ただ、たとえばAlfred Russel Wallace(ウォレス線で有名)は1890年代前半には入手し数年栽培しているので、まったく無理というわけでもなかったようです。しかし北欧の赤いスイレンを手なずけ、温帯スイレンの改良を本格的に始めて、赤いスイレンを大衆の目に触れるようにしたのはやはり、かの有名なLatour Marliacでした。彼は1880年代末から1900年代にかけて莫大な品種数を発表し、その購入者にはかの有名なClaude Monet(印象派で知られるモネその人)もいました。モネの「睡蓮」には赤いスイレンが描かれていますが、それは当時の時代の最先端でした。

さて、問題はLatour Marliacの売り文句で、彼は赤いスイレンをNymphaea rubraに由来すると誤記した(あるいは、そしておそらく?意図的に)のでした。そもそも北欧の赤いスイレンとアジアの赤いスイレンの学名も、どちらもルブラで非常に紛らわしいというのも問題でしょう。というわけで現在になっても、Nymphaea rubraで検索するとしばしば赤い温帯スイレンがヒットしてしまうし、アカバスイレンと検索するとほとんど赤い温帯スイレンしかヒットしない状況になっています。

アクアリウムではタイニムファといえば本種ですが、学名っぽい表記で売られるときは「Nymphaea stellata」で売られることが多いです。しかしこれは現在、N. nouchaliのシノニムとされています。N. nouchaliの記載は微妙でどの種を指しているのかいまいちピンとこない感じなのですが(事実ConardはN. rubraのシノニムとして考えたくらい)、N. stellataのほうは古くから認識はされてきました。それがなぜ現状の流通名になっているのかに関してはやや理解に苦しい面があります。現状N. stellata(ようするにN. nouchaliだが、N. nouchaliを分割するならN. stellataを復活させるべきと考える人もいる)に関してはアクアリウムでの流通はほぼなく、「ステラータ」も「ルブラ」も基本的にはN. rubraであると考えていいと思います。(N. pubescensも流通しているのではないかと期待していますがいまのところ存在をつかめていない)

 

東南アジアの田園地帯においてN. rubraはありふれた植物のようで、おなじlotos亜属のN. pubescensや東南アジアでは移入のN. lotusとともに、花茎や新芽を食用とされています。観賞用植物としての栽培や改良は歴史は長いのですが、Brachyceras亜属やNymphaea亜属のような一般化はできませんでした。その理由としては大型で場所をとること、小さくすると咲かないこと、耐寒性が極めて低いこと、原種が少なく花色のバリエーションがN. rubraの赤くらいしかないこと、あたりが挙げられるでしょう。しかしその大柄で迫力ある姿や、水槽内でも沈水葉で長期間生育増殖できることなどのメリットから池植えやアクアリウムプラントとして親しまれています。

 

つぎはケミズキンバイ Ludwigia adscendens。

ミズキンバイやフローティングルドウィジアの近縁種です。東南アジアの熱帯魚現地写真ではほとんど常連と言っていい植物で、現地の植生を再現するにあたっては必須と言っていいくらいですが、流通は極めて少ないです。

本州に見られるミズキンバイにくらべると草体は一回り小さく、葉脈が白く目立ち、浮いて育つ際には呼吸根がフロート状となって草体を安定させ、花は白いなどの違いがあります。ミズキンバイに似て毛がある、というとオオバナミズキンバイを連想される方もいると思いますが、オオバナミズキンバイの花は黄色ですし、オオバナミズキンバイにフロート状の呼吸根はありません。台湾などにはミズキンバイとケミズキンバイの雑種がいますが、これは花が黄色でフロートがあります。アフリカのケミズキンバイも黄色でフロートがある個体群がいるのですが、これはさすがに別種じゃないかと思っています(裏付けのない根拠のないフィーリングの発言)南米のフローティングルドウィジアもとてもよく似ていますが、フローティングルドウィジアよりも葉脈が白く抜けることや葉はさじ状でより長いこと、陸上形では茎に毛が密生すること(フローティングルドウィジアは無毛)で区別できます。フローティングルドウィジアの和名はウキバルドウィジアですがどうにもコビトヒメビシを連想させてしまって微妙なので、ケナシケミズキンバイが妥当でしょう((笑))

ケミズキンバイにおいて特筆すべきなのはその適応能力と可変性で、水に浮かんで生育する際は無毛でフロート状の呼吸根を発達させて浮葉植物として生育し、抽水で生育する際には毛が多数生じて茎は細く、しばしば木質化します。水中に無理やり沈めると、ミズユキノシタを貧弱にしたような微妙な沈水葉をだすのですがなかなか長期維持は難しいです。ミズキンバイやオオバナミズキンバイ、フローティングルドウィジアに関しても微妙な沈水葉はあるのですが、沈水適性は低いグループです。

栽培に関しては容易で、室内でも抽水~浮葉条件で栽培できます。但し上を刈り払って沈水部だけにすると再生しないことがあるので、カットするときには差し戻ししましょう。浮かべておくだけでもあるていど育ちますが、根を張らせた方がよいです。

日本では南西諸島に分布しますがかなり局限されています。

 

そしてサルビニア ククラータ(ナンゴクサンショウモ)Salvinia cucullata。

アクアリウムではお馴染みの植物ですが、東南アジアの現地写真でもよく見かけます。東南アジアのサルビニアはどうも、ほとんどこの種類しかいないようです。東南アジアの現地写真でみかけるもう一種のサルビニアはオオサンショウモですが、オオサンショウモは南米原産の外来種です(複数の近縁種がおり、じつはオオサンショウモの同定がサルビニアの中では最も難しい)。

サンショウモの仲間は特異な形態をもっており、沈水葉が根の役割をし、浮葉が葉の役割をします。胞子嚢は沈水葉のあいだにつきます。サンショウモ科としてはアカウキクサ属が同じ科に含まれ、また見た目からは想像がつかないですが、目レベルでは次に紹介するナンゴクデンジソウなどのデンジソウ科に近縁です。

ククラータもまた形態的には特異な種で、漏斗状の葉は光量や栄養条件によって大きく姿を変えます。強光かつ富栄養化した条件では葉が強く立ち上がり、”ハチの巣”を彷彿とさせる姿になるようですが、なかなか狙って作るのは難しいです。この姿にどういう意義があるのかいまいちわからないのですが、オオサンショウモやサルビニア ミニマも強光量かつ富栄養にすると葉が立つので何かしらの共通する事情はありそうです。(どこかにそういう記述がありそうなのでそのうち調べたい)

 

ナンゴクデンジソウ Marsilea minutaです。crenataの表記の方が有名ですが、いまはminutaと同種とされています。日本のデンジソウは幻の存在になってしまいましたが、この種はいまも東南アジアではかなり一般的な種類です。沖縄においてもナンゴクデンジソウが現在も比較的身近な植物としてみられるので、植物として頑丈な面もあるのかもしれないです。

ナンゴクデンジソウはサイズが極めて可変し、適した条件では葉長10㎝近くの大迫力の姿になることすらあります。東南アジアでは食用として重要な植物で、生食するとほんのり甘みがありますが、ややえぐみもあります(食べた後喉がイガイガする)。ナムプリックなど、辛いソースをつけて食べるのはそのためでしょう。

水槽で栽培すると矮小化しがちで、私の栽培下ではまた浮葉ばかりつけてしまいます。成長はかなり早く、葉柄がかなり伸びるので、水槽が葉柄だらけになり、そこで切ると調子を崩す…という印象です。貧栄養条件にしてやると沈水葉のみになるのですが、こんどは遅い…。なかなかスイッチの入れ方が難しく、水槽では扱いに困る植物です。

ただ屋外ではすこぶる強健で育てやすい草なので、強光の確保が最優先事項なのでしょう。東南アジアのデンジソウ類は今のところナンゴクデンジソウであるといわれていますが、他種がいる可能性はあると思います。また、アクアリウム適性の高い個体群がいるとおもわれるので(たとえばちゃんと同定はしていないがベトナムクローバーなど)、そうした個体を用いてそれっぽくする、というのは手でしょう。野性味のある浮葉を楽しむのであればあまり系統は選びません。

 

ビトウクグ Cyperus compactusです。

大型の南方系のカヤツリグサで、国内では大東と小笠原にのみごく僅かな記録があるようですが、ほぼまぼろしの存在です。ただし東南アジアでは普通種の様です。湿生~抽水性の種ですが葉は粉を吹いたような質感で固く、日本にみられるカヤツリグサ属にはみられない質感です。水に困るような環境でもないので、この堅牢な草体がいったい何に適応しているのかは個人的に興味深いと思います。

 

2枚目のイトタヌキモと、3枚目のイネ科植物に関しては夜も遅いので割愛…そのうち書き足すかも(といってかきたしたぜんれいあります?)