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ヒルムシロ属の花に関して(II)それは本当に、「花」なのか?

先日はヒルムシロ属の花の構造に関して説明した。

ヒルムシロ属の花の構造に関して - 水草オタクの水草がたり.

すくなくとも上記の内容で記述的には通じるのだが、それで終わりではない。

そもそも、ヒルムシロ属において花のように見えている1単位は「花」なのか?という問題もまた、水草研究史において100年以上も論争をおこしている問題であって、その問題の一部は未だに未解決である。

たしかに三放射状を基本とする単子葉類において、4放射状のヒルムシロ属の花は異質である。さらに古典的に別の科として扱われてきたものの、最近ではヒルムシロ科に含まれるイトクズモ属(Zannichellia)においては「1個の雌花とその基部から生える雄花が1セットになってつく」という形があたりまえのように語られている。イトクズモ属の花とヒルムシロ属の花が、根本的に異なるというのは俄かには信じがたい話だが…。

有力な対立仮説として、じつはヒルムシロ属の「花」は退化した雄花と雌花からなる花序なのではないか?というものがある。

 

この考えをはじめて書いたのはKunthのようだ。

Kunthは1841年に、この構造を、退化した雌花4つと雄花4つ、および苞と解釈している。つまりこの「花のようなもの」は実際には花序である、という説である。

v.3 (1841) - Enumeratio plantarum omnium hucusque cognitarum - Biodiversity Heritage Library

三木茂も1937年に、ヒルムシロ属の花を実際には8つの雄花、1つの雌花、1つの苞の複合体であると考え、それがどのように進化してきたかに関して他の植物の類例から推測している。

https://doi.org/10.15281/jplantres1887.51.472

前回の記事にも上げたSattlerはヒルムシロ属の発生中の花を観察し、外側のパーツがすくなくとも葯の一部ではなさそうだということを発見した。しかしながらこの「花」が本当に花被なのか、それとも雄花のついた葉なのか、そのどちらが正しいのかは根拠不十分であるため保留としており…

https://doi.org/10.1002/j.1537-2197.1965.tb06754.x

その後もヒルムシロ属の花を実は実際には複数の雄花と雌花からなる偽花Pseudanthiumであるという説は根強く、あれが花なのか?偽花なのか?という点に関して明快な答えは出しにくい。

Nunesらの2012年の論文https://doi.org/10.1016/j.aquabot.2012.02.006ではヒルムシロ属の花の発生を観察し、なぜ4放射状なのか?どのように4放射状になったのか?という点に関しても考察している。ただし著者らも説明が難しいとしており、議論の余地はまだ大いにあるように思われる。

 

身近な水草にひそむ闇はどこまでも深い。