水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

水草育成と硬度について

水草育成には「弱酸性の軟水が良い」と言われてきたことについて、根拠を求めようとしてみる。同時に、砂水槽や新品のソイル、そして使い古されたソイルの育成特性についてもある程度取り上げることとする。

私の言っていることが本当に正しいのかは果たしてわからないが、少なくとも現状水草水槽を取り巻く水質に関しての多くの知見に説明はつけられると考えている。

 

0. 水草水槽における硬度ってなんだ?

水草水槽にて計測される硬度はKHとGHである。TDSに関しては今回は述べない。特定の物質を測っているわけではなく議論が面倒だし、色々なものの影響を受けてしまう。要するに、目安にしかならない。それに対して、KHとGHはシンプルでかつ議論しやすい。

ふつう、水の硬度はおもに、Ca(HCO3)2および、Mg(HCO3)2による。(これらによる硬度を一次硬度という)

なぜなら、普通の真水に硫酸イオンや塩化物イオンはふつうはそこまで溶けていないためである。(これらによる硬度を永久硬度という)

そのため、硬度は2つの方法で測れる。

1. CaとMgの濃度を測る→GH

2. HCO3の濃度を測る→KH

GHが高ければKHが高いとも限らず、逆もまた然りである。

たとえばイオン交換樹脂(いわゆる軟水機)でCaをNaに交換すると、GHは下がるがKHはあまり下がらない。逆に塩酸を入れると、塩化カルシウムは水に溶けやすいのでGHはそのままでKHは劇的に下がる。

 

 

 

1. GHの観点から、カルシウムは悪者か?

まずここを疑おう。

硬度は、アクアリストにとってふつうCaもしくはMgの濃度として捉えられている。

しかしながら、CaおよびMgは植物の育成にとって必須であり、それを0に向けてどんどん減らすというのは、植物を育てる上において矛盾していることにまず注目したい。

硬度が高いということは、必ずしも水草の生育を不可能にするものではない。たとえばヨーロッパでは石灰岩地帯から流れる弱アルカリ性で硬水の水路こそ、水草が最も多様な場所である。このように、硬度は水草の生育を不可能にするものではない。単にネイチャーアクアリウムに用いられる水草が、硬度に弱い(?)ものばかり使われているというだけの話であることに、まず一言述べておこう。

さて、カルシウムやマグネシウムに本当に植物毒性があるのか、甚だ怪しい。アルミニウムなどは植物毒性で有名であるが、これはむしろ酸性にすると上がってくる。よって畑では石灰を撒いてpHを上げる方向には注目されることさえあれ、よっぽど特殊な高層湿原の植物(ブルーベリーやクランベリー)を除いては水草水槽のようにpHを下げることに注意が払われることはない。したがって、これらのアルカリ土類金属そのものが、わずかな濃度で植物にに影響を与えているとはあまり考えづらいのである。

陸上で稀なカルシウム障害が水草では多発すると仮定したとき、考えられうる要因としては、細胞壁ペクチンの重合が高Ca環境下では早期に起こって細胞の伸長を妨げられることが思い浮かぶ。(陸上では成長点にふよふよCaが飛んでかることはないが、水中では起きる)これは水草を育てている方なら身に覚えがある様に思う。少なくとも一部の水草において、この様な症状を出すものがある。逆に硬度を下げると溶けてしまう水草もかなり多く、そうしたものは高度に水中に適応した沈水植物がほとんどである。これはおそらく細胞壁の硬化に用いるカルシウムを水中に溶けている分で補うために、細胞壁の強度を保てなくなって細菌感染を起こしやすくなり、溶けるのであろうと考えれば説明がつく。

また、植物は”裸の”カルシウムを普通はうまく吸収できず、有機酸に結合した状態では吸収率が上がることが肥料屋の間では常識に近い。蓮などの栽培では荒木田土に腐葉土をいれるが、この理由としてはカルシウムの利用効率上昇であって、pHを下げるためではない。

これらのことから、水中にあまり適応していない水草にとって、裸のカルシウムは本来陸上では根と成長点の間に濃度勾配があり、それが水中の高硬度環境では崩れるという仮説がたてられる。

ここでソイルを使用した場合を考える。ソイルは有機酸および陽イオン交換能により水中からCaを除去・トラップし、土中に溜め込む。要するに、「水中という特殊な環境をCa濃度勾配において陸上に近づけることを可能にする」のである。

要するに、「水中への適応があまり進んでいない水草はカルシウム濃度の低い軟水を、高度に水中に適応した水草はカルシウム濃度の高い硬水を好む」ということが考えられる。

これがナトリウム式の軟水機が水草水槽によく使われ、ある程度の評価を得ている原因である。カルシウムをナトリウムに変えてしまえば、水中適応が低い水草も栽培が可能になる。

しかしながら、これだけでは「硬度高いとpH下がらなくてコケでやすいし水草が育たない」という経験的事実を説明できない。

 

2. KHの観点から、炭酸水素イオンは悪者か?

炭酸水素イオンは多くの水域において、pHを規定している。炭酸水素イオン+炭酸イオンの値をアルカリ度といい、炭酸水素イオンと二酸化炭素濃度でpHを算出できるくらいである。

要するに、KHはほぼpHと連動している。

しかし、おなじpHの水を用意したとき、KHの高い水に酸を入れても、なかなかpHは下がらない。これは加えた水素イオンが、炭酸水素イオン+水素イオン→二酸化炭素+水、の反応に使われてしまうためである。KH=0のRO水が良い例で、CO2が溶けてpHがかなり下がってしまう。二酸化炭素を含む大気に生きている以上、二酸化炭素対策をしなければ純粋な水は酸性である。

さて、こんどは逆にpHの高い水に二酸化炭素を入れると、こんどは入れても入れても二酸化炭素は炭酸水素イオンになってしまう。ようするに、pHの高い水にCO2をいくら入れようが、KHが上がるばかりで水中のCO2濃度はなかなか上がらない。(正確には化学平衡で議論するが、敷居が高くなるのでいったん文字で説明)

ここで重要なこととして、普通の陸上の植物は二酸化炭素を利用する。炭酸水素イオンを使えるのは藻類と、水中のスペシャリストである一部の水草だけである。

炭酸水素イオンが多いとpHが高く固定され、pHが高いと水草の使える炭素ソースが減り、藻類の炭素ソースが増える。

 

3. テトラpH/KHマイナスはなぜ塩酸と硫酸なのか

ネイチャーアクアリウムに頻用される様な「水中の新参者」な水草においては、1.よりカルシウムによる成長障害が、2.よりpHによる炭素供給障害を起こすことにより中性〜弱アルカリ性の水では生育が難しくなる。一方でカルシウムがゼロではいけない。一方でマグネシウムに関しては葉緑素のために必須であり、あったほうがいい。

そのため、pHおよびKHを下げるためになんかしらの酸を入れると2.の問題は解決するが、1.の問題は解消しない。

そこで硫酸が登場する。

硫酸カルシウムは水に難溶であり、沈降する。つまり、カルシウムそのものを沈めて除去できる。一方で硫酸マグネシウムは水によく溶ける。こうすることにより、pH/KHマイナスはカルシウムとpHを下げつつマグネシウムを保つことができる。

しかしながら、すべてのカルシウムを沈めてしまうのもまた問題である。

ここで塩酸だ。

塩酸カルシウムは水によく溶け、塩化マグネシウムも極めてよく溶ける。

つまり、pH/KHマイナスはマグネシウムを保ちつつ、微量のカルシウムを維持し、かつpHを下げて二酸化炭素水草に利用しやすくするのである。

極めてよくできた製品だと思う。

 

 

4. ソイル環境における硬度と水草

ソイルを入れるとpH,KH,GH全て下がる。イオン交換および有機酸によるCa-H, Mg-H交換と保持の影響である。

この時点で水中でCa, Mg, HCO3が少なく根には多い、"水中には新参者な水草にとってちょうどいい"環境ができる。いっぽう水中の金属イオンを使うことのできる水中スペシャリストたちにとっては苦しい環境である。

換水を繰り返すとCa, Mgの吸着が平衡となり、吸着だけでなく逆洗の要領で吐き出し始める。

そして、換水によるCa, Mg導入、ソイルに溜まった硝酸塩のバランスにより、ある程度のpHになる。(正確には硝酸塩がさらに溜まるとゆーっくりと下がり始める)

このpHは源水の水質によって決まってしまい、いちど固定されてしまうとそれ以上に硬度やpHをとっさに下げることは困難となる。たとえば一気にH+を加えたとしても、加えたそばからカルシウムと交換されてしまう。

pHを下げるために大量に酸を加えることも、やってみた。

しかし今度は有機酸がゴッソリ溶出してしまう(アマゾニアver.2など)、ドロドロに溶けてしまう(ミネラルソイルなど)ことが起きた。

こうなったソイルは再生が困難である。要するに、平衡に達した水質でやりくりするしかない。

このときの水質が水草に適するか適さないかは地域により大きな違いがあり、地域により長期維持の難易度が全く異なる原因の一つである。

ちょうどいい水質になるような地域、もしくは立ち上げ時からこまめにpH/KHマイナスを添加した水を使っていた場合、最初は水中ビギナー系の水草しか育たなかったのが、だんだんと色々育つようになって面白い。そういう、いい平衡状態ではほぼなんでも育つ。

※RO+ソイルもさんざんやってみたが、面白いことが起きた。ポタモゲトンやアナカリスならともかく、エレオカリスやエグレリアが育たなかったりした。さすがにカルシウムやマグネシウムなしの環境では育たない水草が多いのだろう。あと、エグレリアなどが生えているネグロ川流域ですら、沈んでいるだけである程度の硬度物質はあるのだろう。さもないと硬骨魚類が生息している事実を説明できない。

 

しかし、栽培に適さない地域でソイルを使うと最悪である。

要するに、立ち上げ最初期の水槽は水中スペシャリストたちがヘタる一方で水中ビギナーズが元気に育ち、しばらくすると水中ビギナーズがヘタって水中スペシャリストしか育たなくなる。これを1サイクルすればビギナーもスペシャリストも全滅である…。

つまり、「ソイルを水質調整に使うべきではない。」

余談だが、硝酸塩とカルシウムは黒髭ゴケ…紅藻類にとって非常に良いエサになる様に感じる。「黒髭危機一髪」になるのは長い間水換えをせずに硝酸塩でpHが下がった水槽であり、pH/KHマイナスで下げてアンモニア態の窒素を過剰投与したとしても、黒髭大爆発はしにくい。

さて、この状態がひたすら続いてうまくバランスを取れていると、腐植による有機酸の蓄積でまたpHがじわじわと下がってきてまた多くの水草が育つようになる。が、ただここまで持ってくるにはなかなか、かなり技がいる様に思う。

また、ここまできた環境に特別適している水草はかなり限られる。

原因はおそらくだが、粘土鉱物にトラップされたカルシウムは植物にとって使いにくいためだろう。スイレンや蓮でもCaイオン交換能力をもつ粘土鉱物を主体とした用土を使っているにもかかわらず、カルシウム利用の促進を目的に粘土にわざわざ大量の腐葉土を漉き込むことからしても納得である。

長いこと維持しているショップに多く見られる水草がどこでもだいたい同じ(要するにエキノとクリプト)だったり、長期維持してpHは下がっているのに水草がダメになった水槽にアワビの殻や苦土石灰を入れると謎に復活したりするのは、このためだろう。そのまま放置すると、他の多くの水草は低空飛行しがち。ソイルが吸着したアレロパシー物質の問題も考えられるが、さらに維持していくとその分解もできていくのではないかと思う。(その境地に達することができているのはRootsくらいだろう)

 

5. 砂水槽における硬度と水草

5-1 砂水槽(貝殻混じり)における硬度と水草

次に、貝殻が混じった砂水槽を考える。ふつうの水草栽培をする上では、大敵といっていいところである…。なぜなら、炭酸カルシウムはCO2と反応して炭酸水素カルシウムとして溶け出すからだ。(石灰水ぶくぶくする有名な実験)せっかく添加したCO2を次々に藻類の餌にしているに等しい。

一方で、CO2と炭酸水素イオンを両方使える水中スペシャリスト(デュアルユーザーと言われる)にとってはこうした状況でガンガンCO2を焚かれるのはむしろ好都合である。ただ彼らにとってもCa吸収に有機酸の補充はある程度必要と思う。本当に要らない「ように見える」のは浮草とナヤス・グアダルペンシスくらいである。

 

5-2 砂水槽(貝殻なし)における硬度と水草

水質に関していい意味でも悪い意味でもニュートラルな水槽では、最初は著しく水草が育ちにくい。これは有機酸による成長刺激がなく、かつ根の周囲と水中のカルシウム勾配もなく、水中にカルシウムやマグネシウムがあっても有機酸による吸収促進がないためではないかと考えている。(それでも育つ化け物たちが浮草類やナヤスである)

これにしばらく浮泥が溜まってくると急に水草が育つ様になる。これは浮泥の有機酸が成長を刺激し、Caを吸着・保持し、水草にとって利用しやすい形にするためと思われる。長期維持しても問題が生じにくいのはソイル環境について生じる上述したような問題が、シンプルゆえにないためであろう。古の技術だが最近一部で注目されている「パワーサンド+砂」「ケト土+砂」「ピートモス+砂」「コンプリートサブストラット」といったソリューションは非常に合理的と言える。

平衡に達したソイルも砂水槽も長期維持は可能だが、pHの上下を良くも悪くもさせやすい点が異なると考えている。

要するに、一般的に言われていることとはむしろ逆に、長期維持の観点からすると水質が水草に適した地域ではソイルが、そうでない地域では砂の方が有利と考えられる。