今回はこれで一本記事を書こうと思う。
ガシャモクの学名に関しては、Potamogeton lucens, Potamogeton dentatus, Potamogeton lucens ssp. sinicus, Potamogeton teganumensis, Potamogeton lucens var. teganumensisなどなど様々なものが流布している。
まずはじめに、Potamogeton lucensはLinnaeusにより1753年に記載された。いつもの通り1文のみの記載である。その後さまざまなP. lucens似の種類が西洋において記載されたが、少なくとも現在において、ヨーロッパ産のアクセプトされている酷似種は存在せず、最も近縁な種はP. gramineus及びアメリカ大陸のP. ilinoensisとされている。
日本でガシャモクについて最初に言及したのは、知る限りでは牧野富太郎である。
牧野は「P. lucensに似るが小型」として、1905年にP. teganumensisを記載している。その後1912年にP. lucens var. teganumensisに改めている。栽培下とはいえ現存する手賀沼の個体群であり、これがガシャモクであろうことは疑うべくもない。
日本のガシャモクないしそれに類似した植物について、次に言及しているのはHagströmであり、彼は1862年に横浜にて採集された標本に対し、P. dentatusと1908年に名付けている。
さて、その後ガシャモクの学名について、原寛が1985年にまとめている。
原は中国でP. lucensと似た植物を採集し、東アジアの近似種を調べたところ、P. sinicus Migoの基準標本と一致することを見出した。原はヨーロッパのP. lucensとP. sinicus の違いとして、やや小型であること、果茎は太くならない(径2~3㎜)こと、果実が2~3㎜であることを挙げ、ガシャモクとは酷似し、葉辺の微小歯牙が目立たないことで区別した。このことから原はP. sinicus をP. lucensの亜種レベルに降格させ、P. dentatusをP. lucens ssp. sinicus var. teganumensisのシノニムとした。
さらに、Wiegleb &Kaplan(1998)ではP. lucens ssp. sinicus、P. dentatus、P. lucens var. teganumensisをまとめてP. lucensのシノニムとしている。
要するに、日本のガシャモクは(世界のものと同じく)シンプルにPotamogeton lucensと呼んでおけば少なくとも安心だろうし、サイズをはじめとした微細な差異に着目してあえて違う呼び方をするならPotamogeton lucens ssp. sinicus var. teganumensisとすべきだろう。P. dentatusには先取権がなく、かつそもそも今現存しているガシャモクは横浜の個体群ではないわけであるから、この呼び名は推奨できない。
現在KewのサイトではなぜかP. dentatusとP. lucensが両方アクセプトされており、ユーラシアに広く分布するP. lucensの分布に日本だけぽっかり穴が開いてしまっているのだが、これは以上の経緯からすると奇妙な現象である。
さらにいえば、P. lucensのシノニム・リストにP. angustifoliusが入ってしまっていたりする。これはたぶん、単純な誤りだろう。Kewのサイトは非常に助かるけど、常に正しいわけではない、というか、どこに境界を設けるか難しいこういう物事について「正しい」かどうかは自分で裏をとって、自分の中でそう信じるだけのものであろう。