水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

あの日見たボタンウキクサの正体を,僕たちはまだ知らない.

ボタンウキクサに初めて出会ったのは野外ではなく,水槽だった.

アマゾンフロッグピットそっくりな姿で根が美しく分岐しており,「特定外来生物」とされるいかつい姿とは全く異なるように見えた.

そもそも販売名もアマゾンフロッグピットで,葉の直径が500円玉くらいでランナー増殖していたのだった.水草を始めた当初,アマゾンフロッグビットとしてこのようなボタンウキクサが売られているのをいくつかのショップで見かけた.当時ボタンウキクサ特定外来生物に指定されてすぐであり,私はそのことを知っていたけれども指摘することは無かった.

私がそれを見ていた数軒の熱帯魚ショップは,今はもうどれもない.

さて,次に私がボタンウキクサを見たのは九州だったと思う,とにかく帰化した個体群だ.日向のものはもちろん文字通りのレタスだが,木陰などの小さな株でも立ち上がったレタス状でアマゾンフロッグビットのような株は見かけなかった.その後もウォーターレタスはあちこちで見かけたが,たいていの場合ゲンコツ大のレタスが水に浮いていた.案外そんなに強い外来種でもないのでは?というのが感想である.他の外来種と戦争になると案外負ける.とくに,ブラジルチドメグサとは相性が悪いらしい.

さて,その後屋外でもアマゾンフロッグビットのように小型化し立ち上がらないウォーターレタスが「パンタナルボタンウキクサ」として流通していたことを知った.以降,あの日見たウォーターレタスは「パンタナルボタンウキクサ」だったのだろうと思ってきた.外見も小型化する性質も,それが光量の強い環境に移されても「あたかもアマゾンフロッグビットに擬態するかのように」立ち上がらない性質を持っているようだったことも,私の推論を裏付けていたように感じていた.

そして,いま「水草おもしろ話」を手に取ったところ,第三のボタンウキクサの存在が書かれていた.葉が立ち上がらず,水面に張り付くようにして育つ点は「パンタナルボタンウキクサ」とよく似ている.しかしこれは噂に聞くパンタナルボタンウキクサはおろか,通常のボタンウキクサより好適条件では大型化し,弱光では2~3㎝に小型化して増殖するのだという(通常のボタンウキクサホテイアオイのように,弱光では育てられないのだとか).

 

さて,特定外来生物に指定されたボタンウキクサを維持しているショップはもう無いと思うし,ボタンウキクサの栽培比較を行うこともできない.

多分,上記3タイプのボタンウキクサは,もうどこにもない.

パンタナル」の例からするに,葉が水面に広がるタイプが南米にあるのは多分間違いないだろう.

 

アフリカ原産か南米原産かよくわからない本種だが,本種を食害する昆虫が南米に分布していることから,もしかするとどちらも正解という可能性もあるかもしれない.別タイプと思われる個体群が南米にもし存在するのであればその可能性が高まるように感じる.

(移入なら南米のボタンウキクサはほぼ全部同一クローンか,きわめて均一な個体群のはずだ.そして,案外大西洋をまたいでアフリカと南米に分布し,わりと最近移ってきたのではないかと思われる水草はエイクホルニアやシンゴナンサス,ウェブステリア,オテリアなどなどいろいろある).

 

まあ古代エジプト人やギリシアのDioscoridesやTheophrastusも本種について言及している(Stoddard, 1989)し,(Renner and Zhang, 2004)ではDNAおよび化石記録から旧北区起源と推測しているから,アフリカというのは間違いないのだが.

 

先ほど外来種としてはましな方と書いたが,これは「ゴジラキングギドラ,どっちが残った方が人間に害悪が少ないか」というような話なのでどっちも怪獣級の化け物である.再確認できないのは悔しいけれど,特定外来生物入りは妥当だと思う.あれは人が屋外で管理しきれる植物ではない.

 

Renner, S. S. and Zhang, L.-B. (2004). Biogeography of the Pistia clade (Araceae): based on chloroplast and mitochondrial DNA sequences and Bayesian divergence time inference. Systematic Biology, 53, 422–432.

Stoddard, A. A. (1989). The phytogeography and paleofloristics of Pistia stratiotes L. Aquatics, 11, 21–24