ファームから入荷する水草にはしばしば謎なものが含まれています.そして,そうしたものの多くが普通の名前で売られるものに混じっているのです.
そうした当たり水草を探し出すのは目利きにしかなせない技で,膨大なショップをめぐりながらにらめっこという感じになります.
しかしそういった状況も変わってきました.
ファームからの鉛巻き水草入荷が減り,生産の初期コストが高い組織培養ばかり見かけるようになりました.組織培養にかけるコストを考えるとよっぽど大量に売れる見込みのものしか培養されないようになり,入手できる種数が激減しました.
さらに組織培養は流通形態を一変させ,ショップに行っても小さな冷蔵庫が1つあるだけという状況が目立つようになりました.
さらに日本の長引く不景気,高齢化,アクアリウムから爬虫類への人気シフトなどによりショップの水草流通がいちじるしく減り,ショップに行っても金魚藻しか売っていなかったりそもそも水草が数種しかないという状況が常態化,ショップ巡りの効率が絶望的になりました.
さらに追い打ちをかけるようにブセファランドラなどの高額なサトイモ科渓流植物が流行るようになり,投機目的での購入が目立つように.そして名前の偽装が相次ぎ,投機の対象はやがて陸生植物へと移っていき…正直お先真っ暗な時代になったものだと思うばかりです.
そんな中で新しくできた高城氏の店では今ではとても探しにくくなったこうした謎水草(高級水草でも珍水草でもなく,ロマンあふれる謎水草)が多数セレクトされており,まったく本当に感動ものでした.長年水草にかかわってきた目利きにしか絶対に選べない品揃えです.本当にすごい.
そんな中で私がセレクトしたとっておきの謎水草がこちら.
ブリクサ・アウベルティとして入荷したブリクサのなにかですが,奇妙なことに果実はあっても一つも種子が入っていません.さらに高城氏によれば短い茎があるとのことで,ショートリーフ(Blyxa alternifolia, セトヤナギスブタ)的です.
全体的な雰囲気はスブタやミカワスブタに似ていますが,妙に中肋がはっきりしており,一部の葉ではここで折れ曲がって水上に挙げても妙な剛性をもつようです.
しかしまあ種がない,花はあっても全部♀(同定には雄花が重要)というのではなんとも決め手が....
とりあえず一旦葉のアップをアップロードします.
花が本当に雌花なのか(つまり雌雄別株だから結実しない),実は雌雄同株で交雑により不稔なのかは正直まだわかりませんが,候補を挙げておきます.
茎をもち,しかしあまり伸長しない
雌雄別株:Blyxa quadricostata, Blyxa octadra, Blyxa senegalensis, Blyxa mangalensis, Blyxa hexandra,(Blyxa radicans)
雌雄同株:Blyxa leiosperma, Blyxa alternifolia
Blyxa alternifoliaはもっと鋸歯がはっきりしているためたぶん違うと思います.Blyxa
leiospermaは見慣れていますがかなり似ており,候補にはあがりますが結実しないのは腑に落ちません.
Blyxa hexandraは中肋がはっきりしないため除外
Blyxa quadricostataは葉先が鈍頭で被帽状の独特な形態であるとのことで,図を持ち合わせていませんが違うでしょう.
葉脈は10以上あるので,B. senegalensisとB. mangalensisの可能性は低いでしょう.
B.octandra...なら広域分布だしありうるかも...でも変な交雑種も候補にあがるし…
正直もっと観察が必要です.