水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

乾燥しても復活する水草,Lindernia intrepidus (Chamaegigas intrepidus)

今回は世界の水草の中でも驚異的な植物,乾燥からよみがえる水草を紹介します.

Lindernia intrepidus(=Chamaegigas intrepidus)とは?

ナミビア中西部の岩盤にできた水たまりに生える水草です.この水溜まりは乾季には干上がってしまい,雨季の短い期間にのみ水が溜まります.一年の長い間干上がったまま,しかも水が溜まっても日中に水温が非常に(35℃ほどまで)上がり,さらにpHが一日の間に激変し,朝ではpH6だったものが午後にはpH10にまでなります.空気が乾燥しているため,たくさん雨が降っても乾燥により一日に10㎜も水位が減ります.雨水はあっという間に干上がってしまうため,1回の雨季の間に15~20回も乾燥と復活を繰り返します.結局のところ,一年間で水がたまっている期間は40~85日間しかありません.

こんな環境下で本種は多年草として生育します.雨が降るとすぐに緑色に戻った本種のロゼットで水底が埋め尽くされ,その翌日には糸状の茎が伸び,翌々日には1㎝ほどの4枚の浮葉からなる浮葉の真ん中に花が咲きます.完全に乾燥した草体は8か月以上にわたってそのまま耐えることができるようです.

L. intrepidusの栽培観察記録

Smook(1969)は本種を栽培観察しています.ガラス瓶に1.5㎝ほど現地の土を敷き,その上に完全に乾燥させた植物体を植え,ため置いておいた雨水を入れました.瓶は西日の当たる場所に置きました.実験に用いた草体には浮葉をつけた成長したものと浮葉をもたない草体がありましたが,そのどちらも水に漬けてしばらく置くと基部の葉は緑に戻り膨らみ,生育がみられました.その後冬越しのため乾燥させ,10月の朝8時にふたたび雨水を満たしました.時期と時間の都合上水が冷たかったものの,1時間半ほどで葉が緑になり始め,4日で最初の浮葉がみられはじめました.水温が低い場合浮葉の伸長は遅いようで,6.5㎝上の水面に達するまで32.5時間かかったとのことです.最初の2枚の浮葉は曇天であり気温も低かったため開花がみられなかったものの,その後に展開した浮葉は開花しました.Smook(1969)では種子の発芽の観察もしていますが,ここでは割愛します.

 

どうやって耐えているのか?

L. intrepidusは草体を乾燥から守る構造を欠いており,乾燥するスピードは乾燥状態から再生する植物のなかでも最速の1時間未満です.

ロゼット状の水中葉(浮葉は乾燥に耐えることができず,水中葉で乾燥を耐えます)は乾燥する際に長さが10%から20%ほどにまで「縮み」ます.この奇妙な収縮は本種が被子植物であるにもかかわらず仮導管を持つことにより起こります.この仮導管は乾燥した際に収縮するという,特殊なものです.さらに表皮細胞は細胞壁と強固にくっついており,収縮する際に細胞壁ごと細胞全体が縮むようになっています.乾燥する際,細胞間の原形質連絡も保ったまま収縮することは驚異的です.乾燥時に長さが縮むのは一見理由が不可解ですが,強烈な直射日光を避けるためと考えられています.

根は水中と異なり長さが縮むことはありませんが,乾燥すると細くなります.根の長さまで縮むと一年の大部分を占める乾燥した期間にどこかに飛ばされてしまうため,合理的と言えます.

乾燥ストレスに対する応答に関してはまだわかっていないことが多いですが,高濃度のアブシジン酸が重要な役割を果たしていそうです.水がなくなった岩場は日中50℃を超える高温にさらされることから,その耐熱性にも目を見張るものがあります.但しまだ不明な点が多いです.また水たまりでは窒素分をはじめとする肥料も不足します.これに関してはアミノ酸尿素といった,普通の植物は窒素源としてそのまま利用しない(分解されて初めて吸収する)物質を使っているようです.

 

今回は正気とは思えない珍妙水草を紹介しましたが,この種に関してはまだまだ書くべきことが沢山あるのでそのうち書き足そうと思います.次回もまた珍妙水草シリーズをお楽しみに.

 

 

Giess, W. (1969). Die Verbreitung von Lindernia intrepidus (Dinter) Oberm.(Chamaegigas intrepidus Dinter) in Sudwestafrika. Dinteria1969(2), 23-28.

Smook, L. (1969). Some observations on Lindernia intrepidus (Dinter) Oberm.(= Chamaegigas intrepidus Dinter). Dinteria1969(2), 13-21.

Schiller, P., Hartung, W., & Ratcliffe, R. G. (1998). Intracellular pH stability in the aquatic resurrection plant Chamaegigas intrepidus in the extreme environmental conditions that characterize its natural habitatNew phytologist140(1), 1-7.

Heilmeier, H., Durka, W., Woitke, M., & Hartung, W. (2005). Ephemeral pools as stressful and isolated habitats for the endemic aquatic resurrection plant Chamaegigas intrepidus. Phytocoenologia35(2/3), 449.

 

 

 

ソイルとは何なのか,それは本当に「水草」に向いた底床なのか?

今回はソイルについて書いてみる.

ソイルは本当に「水草」のための底床なのか?

水草といえばソイルを使うもの,というのはいまや常識と言った方がいいのかもしれないが,新品のソイルを使った水槽では逆にうまく育てにくい水草が確かに存在する.

結論から言ってしまえば,

「常時深い水域に生える”水草らしい水草”にはソイル環境は向いていない」

列記してみよう.

カナダモ類(アナカリス),バリスネリア,殆どのポタモゲトン,ニムファ類,ニムフォイデス類,ラガロシフォン,ナヤス(特に,グアダルペンシス),サジタリア,わりと多くのエキノドルスなど・・・

これらはソイル水槽でかえって育てにくい.大磯砂を敷いた熱帯魚水槽で照明も貧弱,CO2も添加していないような環境でもどんどん育つのに,バリバリの水草水槽設備を整えるとうまくいかないことが多い.

「ソイルは,一時的に水没する水域に育つ湿生植物を育てるために有効である」

逆にソイル環境で栽培が容易になるものは,ブリクサやトニナ,ケヤリソウといった例外以外は水上葉をもつものである.そしてこいつらは水中適応してから日が浅い新参者の水草だったり,沈水しているとはいっても浅い湿地に生えるものである.特に水田雑草の類にはソイルが圧倒的に有利であることはいうまでもないだろう.(両生植物,というのが的確なのだがあえてこの記事では「水中適応もしている湿生植物」などと書いている)

また,ブセファランドラやアヌビアスミクロソリウムといった渓流植物の類はそこまで底床に関係がないが,ソイルの方が若干有利な気がしないでもない.

 

では,それはなぜなのだろうか?一旦ソイルの基本的なところに立ち返る必要があるだろう.

 

ソイルと砂,そして他の園芸用土は何が違うのか?

ソイルは極めて高額で特殊な用土である.興味深いことに,園芸資材として用いられる用土とソイルの間には共通性があまりない.

水生園芸の観点から

水生園芸において用土の定番はなんといっても「泥」である.荒木田土やケト土といった泥がが有名だが,自作する場合には赤玉土腐葉土を混ぜてぐちゃぐちゃに泥状になるまで練って,一冬熟成させて使うのだ.

さて,屋外で試してみる限り,これら泥系の用土では上記に挙げたようなソイルに向かない水草も,ソイルに向いた水草もどちらもよく育つ.

では,ソイルの原料たる黒土ではどうだろうか?

黒土ベースにするとサジタリアやニムファ類,ポタモゲトンの成長が悪くなる.一方でニムフォイデスは影響を受けない.所謂ソイルに向いた水草は基本的に,とてもよく育つ.ただ黒土は腐植質が多すぎて,深いと嫌気条件になって臭くなりがちなのが難点である.

赤玉土は肥料が少ないが,赤玉土+化成肥料でもわりといろいろ育つ.但しソイルや上記の用土のような成長はあまり期待しにくい.

砂は単体だとまるでダメだが,腐葉土と組み合わせて使い続けるとなかなかいい栽培用土になる.また,他の用土を覆土するのに使うのもよい.

使い古しの,水槽ではうまくいかなくなったソイルは全日照下の屋外栽培だと驚くほど良い結果が得られる.非常に奇妙なことだ.なんなら使い古しソイルを買い取りたいくらい,屋外で水草を育てる上では良い用土である.実験数が足りないので何とも言い難いが,軒下で使うのにはあまり使い古しソイルがそこまでいい印象がない.紫外線の影響じゃないかというのは,私個人の勝手な推測である.

そして,これも面白いことに新品ソイルは意外にパッとしない.育つには育つのだが,園芸用土×10の値段に相応な出力は望めそうにないし,他の用土に比べて根はりが悪い.

水生園芸の観点からしてみると,ソイルは黒土とそこまで違いはないし,一部の点で劣っている.やはり手が汚れないという点以外において,泥系の天下を覆せるようには思えない.

 

水槽でのソイルの作用

水槽でのソイルの作用は色々喧伝されているが,注目したいのはたった2つである.

1.”新品ソイル効果”による水草の活性化

2.吸着・イオン交換効果

これらは水槽の立ち上げにおいて非常にありがたい.

1.は腐植酸の影響によると思われるが,主に湿生系の水草が一気に調子良くなる.いっぽうで上述した「ソイルに向いていない水草」にはあまり効果を実感したことがない.何が効いているのかいまいち不明な点が多いとはいえ,「新品ソイル効果」の存在は事実と言わざるを得ない.肥料が多いのも当然あるのだろうが,恐らく違う要因もあると考えないと納得がいかない.

2.のイオン交換・吸着効果は原理上色々分けて扱うべきなのだが,アクアリウムとしての便宜上纏めて扱うものとする.イオン交換効果はソイルの原料である黒ボク土において非常に高いことが知られている.但しこれでは黒土と比較する意味がない.黒土もほおっておけば水が澄むのだが,ソイルとは比べようもない.吸着系ソイルが「吸着系」たりうるのはむしろ,焼成時にできた空隙であると考えている.要するに新品ソイルは活性炭の類と同じように,空隙に水中の様々な物質をトラップするとみられる.水槽に入れたとたん急激に濁りがとれたり,メチレンブルーの青が消えたりするのは他の効果では説明しがたい.

1,2を考えてみればソイルの「寿命」の存在はおのずと見えてくる.

新品ソイル効果はソイルに元から入っていた物質が原因なので,当然枯渇する.吸着・イオン交換効果はため込むうちはいいのだが,どんなにストレージがあってもものごとはいつか必ず飽和する.そして飽和したらもう吐き出すしかない.

要するに,こうした効果は一方通行としか言いようがない.

底床としての根を張りやすさであったり,保肥性に関しては他の用土でも代替が効くはずなのでここでは詳しくのべない.

 

ソイルの効果は水草の生育にとって何が重要なのか?

あくまでも仮説にすぎないが,こんなことを考えている.

ソイル環境下で良く育つ植物は基本的に「沈水条件に耐える湿生植物」であることについて先ほど述べた.こうした植物においては,空気中におけるものと近い代謝系を備えていると思われる.たとえば,根から金属イオンが吸収されることはあっても,空気中に金属イオンが浮いていることはほぼない.ソイルのイオン交換効果はおそらくそこに効いているのだと思うし,有機酸もキレート化によって同様の効果をもたらしているのではないだろうか,という仮説が立てられる.実際に実験はしていないので,だれかやってみてほしい.

水中適応が中途半端で,かつ大量に金属イオンを根から要求する水草が厄介だが,”中途半端に使いつぶしたソイル”であれば対応しやすいように思う.

”新品ソイル効果”に関しては恐らく単なる有機酸によるものと思っている.

有機酸に関しては砂水槽にピートやケト土,パワーサンドなどの添加などで”ソイルに向いていない”水草に関しても生育がよくなることをすでに確認しているので,キレート化以外の効果も恐らくあるのではないだろうか.さらに言えば,有機酸効果は水草に限った話ではない.有機酸資材があれだけ売られているわけだし,そのての(たとえばフルボ酸資材など)の説明書を読んだ方がより直感的に書いてくれているような気がするので,あとは任せる.

 

結局,ソイルはどう使うべきだろうか?

ソイルの相性がいい”水草”は多くの場合氾濫原に生育する湿生植物で,水位の上下や土壌の撹乱(しばしば数年に一度だったりする)によって環境のリセットを繰り返すような環境に生育するものである.そのため,連作障害の影響を基本的に受けやすいと思われる.そもそもリセットされた環境が好きなので,ソイルを定期的に交換してリセットする環境下では旺盛にかつ簡単に,インスタントに育てることができる.自生地の環境に非常に近いのだから,あるいみ当然なことである.

逆にソイルが”使いつぶされた”状況に適した水草は”真の水草”たる沈水植物や浮葉植物たちであって,有茎草+エキノドルス→エキノ水槽になる,とかそういうのが無難な使い方なのだろうな,と思ったりする.立ち上げがとにかく容易なのがソイルのいいところだ.いったん立ち上がってしまえばこっちのものであるし,スターティングに有茎草(要するに水没適応型湿生植物)を植えて,ソイル効果がが落ち着いてきたころに沈水植物や浮葉植物が勢力を拡大させる・・・というのがまあ自然ではなかろうか(そんなことADAも書いてたなあ).

要するに,有茎草をメインにやるならばソイルは効果が切れてきたら交換するのが手っ取り早いし,そうでなく水草の茂った水槽がよいのであれば有茎草にエキノドルスやらニムファやら,パールグラスやらを混ぜたり足したりしながら遷移を楽しむのがよい付き合い方であるように思う.

あとは,使い古しソイルは屋外栽培において非常に優秀なので,外で色々育てるのに使うのによい.屋外スペースがどのくらい使えるのかと,水槽内での埋土種子が問題にならなければの話ではあるが・・・

 

それでもソイルを使い続けたい

ただそれでは「その環境に適性のある草が育っている」のであって,「草を育てるために環境を作っている」とはいいがたい.

水中適応が中途半端な湿生植物を愛する身としては,なかなか納得いきがたいのである.こうした湿生植物は隔年で出現することも多く,自然下で安定した湿地では徐々に見られなくなってしまう.ただ柵で囲っただけではいずれ滅んでしまう,アクティヴな介入を要する植物たちである.遷移による影響が大きいのはまあ確かなのだが,ここでは連作障害の観点から考えてみようと思う.

連作障害というのはよくわからない概念で,病害虫やアレロパシー,微量元素の枯渇などなど様々な原因を含んでいるのだが,手っ取り早い解決法は日光に晒したりマルチをかけて消毒し,堆肥を大量に漉き込んで発酵させたうえで肥料や微量元素(例えば苦土石灰)を添加し,数作は違う作物を育てることである.ただソイルは粒が成形されている都合上,堆肥をすきこめないし,連用には限界がある.

細かい目の堆肥をすきこんで発酵させた後に乾燥させ,ふるいにかけて水に浮く部分を除去してから使うなどが考えられる.やっぱり面倒だ.

病害虫の話は一旦さておき,こうした連作障害対策においてやっていることは微生物による成長阻害物質の分解であり,堆肥もその火種として入れているという解釈である.アクアリウムに戻ってみよう.ADAの底床設計はやたらバクテリア重視という印象を受けるが,このあたりを手っ取り早く,失敗しにくいように製品化しているように感じる.ADAも長期使用する場合にはパワーサンドなりバクタ―なりトルマリンなりを添加しましょう,と書いている.これらの製品は内容からして,所謂「古い土の改良剤」として売られているもののアクアリウム的応用なのだろう.要するに連作障害が水槽で発生するのを防止するためにこうした製品群をラインナップしていると,とりあえず解釈しておく.わけのわからない連作障害さえ回避してしまえば,あとは単純明快な肥料の話で解決できる.また畑や植木鉢ではなく自然界の”豊かな”土壌生態系のもとでは連作障害はそこまで問題になっていないように見えるわけであり,土壌にこだわって成長阻害物質を微生物に分解させるシステムを作るということはバランスドアクアリウムの概念から出発したと思しきネイチャーアクアリウムの理想にも沿ったものなのだろう.というか,底床作りこそ天野のネイチャーアクアリウムの神髄であるようにすら思う.

 

逆張りの砂万能論について

さいきん,砂底床による水草水槽が流行りを見せている(?).少なくともソイル環境での限界を見出した人によって砂底床の水草水槽が再び脚光を浴びているように思うのだ.砂底床の特徴は「吸着効果がほとんどない」「有機酸を含まない」という二点に尽きる.有機酸がないのは短所でしかないので,補ってやるのがセオリーである.良い意味でも悪い意味でも吸着効果がないので,水質のコントロールがある程度しやすくなる(吸着・イオン交換効果によるpHロックが生じないし,溶出する物質を含む砂でなければ入れた水に近い水質になる).一方で立ち上げ初期は成長の鈍さや,底床微生物の不安定さに起因すると思われる溶けに悩まされがちである.

パワーサンドやケト土,クレイ,ピートモスなどを下に敷いたりピンセットで突っ込むことによって有機酸による効果を付与し,かつ微生物の定着をよくすることが試みられており,実際に素晴らしい水槽も作られている.長期維持性や底床の自然感などからみて,ソイルよりもずっと将来性も美的な優位性もあることは間違いないだろう.

ただし砂底床の水草水槽は未だに職人技に近い部分があるし,ソイルからすると立ち上がりが遅くてもやもやする.そもそも立ち上げ初期のソイルによるスタートダッシュに優れた水草ばかりがもてはやされてきたので,長期維持ソイル水槽や,砂水槽向きの水草は淘汰されつつあるのもまた然り.

さらに,システムを体系的に理解したショップによって誰でもできるパッケージとして市販されることがまだなされていないことからとっつきにくさがある.多分それに一番近いのはウイステリアやSONOアクアプランツファーム,80~90年代のADAなのだが,現在のアクア雑誌などで紹介されることは少なくなかなか情報に出くわすのは難しい.

というわけで,まだ一長一短といったところだろう.

 

将来的には?

ちなみに私の水槽はソイルが主だが,新品ソイル効果がバツグンに効く湿生植物に興味が偏っていることと,単に重量的な制約によるものである.沈水植物を育てるのであればうまく底床が出来上がった砂の方がいいのではと最近思うようになったが,砂,重すぎる.

赤玉土などをベースにした混合水草用培養土も試している方がいる.ソイルに比べてずっと安価で,重量では砂よりはるかに軽い点で優れているが,長期間使用性に関しては私は把握できていない.少なくとも水草の生育はすこぶるよさそうなので,今後の研究開発に期待したい.

ひとまず,アクアソイルアマゾニアが登場してから30年近くも殆ど進歩しなかった日本の水草水槽の底床はそろそろ変わる時期を迎えているのかもしれない.その間に積み重ねられたノウハウが新しいステージを作ることに期待している.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水生サトイモの話

水草が好きというと,クリプトコリネやらブセファランドラやらアヌビアスやらラゲナンドラやらホマロメナやらをよく勧められる.今回はそんな,水生サトイモについて語っていこうと思う.サトイモ科はいいぞ.

よりによって何を突然言い出す.いまさらどうした?気でも狂ったのか?

やはり日陰に生える草は私には性に合わないのである.同様の理由で,シダ系にもあまり興味はない(ケラトプテリスやサルビニアは大好物だが).

なので今回の記事はこんなタイトルにしておきながら,クリプトコリネもブセファランドラもラゲナンドラもアヌビアスも登場しない.今回話題にしたいのは,食卓に並ぶあの,「里芋」である.サトイモはいいぞ.いや,里芋はいいぞ.めっちゃいいぞ.

里芋?田芋?タロイモ

「里芋」は「山芋」に対する意味で用いられているが,同時に水田で栽培する「田芋」との対比的に使われているような印象は否めない.のちに述べるように「里芋」「田芋」の概念は不可分であるし,また東南アジア一帯に栽培されるタロイモの一部分を「里芋」「田芋」と呼んでいるに過ぎないことから,本稿では基本的に里芋と田芋を合わせてタロイモと呼ぼうと思う.(これ以降,途中で里芋ではなくサトイモと書いていたら誤記である.)山芋に関してはそこまで述べないと思うが,同様にヤムイモの一品種であり東南アジアとの繋がりが大きいので,以降ヤムイモ,山芋と呼称する.

 

里芋の魅力

「里芋」という植物が熱帯原産であることは言うまでもないが,この植物が本来は水生植物であろうことは日本においてはあまり知られていない.また,熱帯地域を原産とするにもかかわらず越冬器官である芋を作ることもまた,非常に奇妙な事実であるし,それには何かしらの選択圧が働いていたとしか思えない.またこの作物の異常なまでの品種多様性はまさにカオスでありとっつきにくいことこの上ないが,逆に言えば深堀りすればまだ見ぬ世界へと求道者を誘うことだろう.今回は日本における,水生の栽培・野生種について的を絞ることにする.海外のものを扱う際には別記事を建てたい.

里芋はなぜ芋を作るのか

 そもそもなぜ熱帯原産のタロイモが芋をつくるのかと言う点についてザックリ述べておくと,インドシナからインド北部にかけての高冷地への適応ではないかと言われている.この地域は最近注目を集めている(どこで?)耐寒性のバナナ類など,熱帯植物でありながら低温への適応を遂げたものの多いフロンティアである.事実,ネパールにおいてタロイモ野生種を調べた吉野(1975)によれば芋状の地下部をもつタロイモ野生種は標高1000m以上に多かったとしている.このような性質は実際耐寒性を持つうえでわりとうまく機能しているようで,タロイモ文化圏の北限である日本においても氷点下を下回る関東地方や山陰地方,長野などにおいて野生化したタロイモ(蘞芋品種群,えぐいも/えごいも)が湿生~水生植物として自生しており,弘法大師の石芋伝説との関連から石芋や弘法芋と呼ばれている(要約すると,弘法大師が芋を分けてくれと頼んだ時けち臭い老婆が「この芋は硬くてまずいから渡せない」といって拒否したところ本当に芋がカチカチになってしまい,仕方がないので捨てたら生えてきてずっと生えているのだ,というもの.いまいち釈然としない伝承だがなぜか日本中にあるらしい).なお,石芋伝説がクワズイモであるという説もあるが,クワズイモサトイモに比べて耐寒性が弱く,ほとんど琉球諸島においてしか見られない.そのためおそらく「食えない芋」から連想された俗説の類ではないかと私は思う.

日本における野生化里芋

 本州におけるこうした野生化タロイモは熱帯植物であるにもかかわらず氷点下を切る地域に自生して生き延びている,とはいったものの,どこにでも生えられるわけではない.たとえば長野では温泉の影響で結氷しない地域に生えているという.但し栽培下においては鉢植えでマイナス2~3℃は耐えるとのことであり(青木,1978),タロイモ類が殆ど開花結実せず栄養繁殖に頼っていることも合わせると,過去最も気温が下がった時に耐えられたかどうかで現在の分布が決まっているのではなかろうか.亜熱帯気候である沖縄県では興味深いことに,北部の種子島~沖縄と南部の八重山諸島とで異なった野生化タロイモ類が自生している.種子島~沖縄の野生化タロイモは沖縄青茎と呼ばれる特異な品種群であり,八重山諸島の野生化タロイモはタイやインドネシアタロイモと関連が深いらしい.そして面倒なことに,同じように水辺で栽培されている田芋とこれらは直接の関係性はないと思われる.琉球列島の,いや琉球王国における農耕文化がどのような歴史的背景であったのか,非常に考えさせられる現象である.

家芋から里芋へ

 さて,どうしてここまで広くに(食用に適さない上に中途半端な耐寒性の)タロイモ類が,しかも相当古くから,特殊な環境だけに野生化しているのかといえば,タロイモが現在とは異なる気候の時期に日本にもたらされたためと考えられる.奈良時代にはタロイモ類は既に主要な作物であり,稲作以前にもたらされていた作物であると考えられている.つまりタロイモ類は(縄文海進に代表されるように気温が現在より2~3℃高かった)縄文人が日本に持ち込み,その末裔が偶々条件の整った地域に残存しているのだろう.また,奈良時代から平安初期にかけては現代並みかそれ以上に気温が高かったため,タロイモ類の生産には有利であったと思われる.そもそもタロイモ類は重量が重く傷みやすいために,税収として納めるには向いていない.そのため自給自足用に慣行的かつ粗放的に,てきとうに家の裏などに植えられていたのであろう.古代日本における農業形態が現在の東南アジアにおいてみられるものに近かったと仮定しても,この扱われ方の推測は矛盾しない.さらに,平安時代までのタロイモ類の呼称が「宇毛」および「家芋 いへつうも,いへいも,いえいも」であったことは生活と里芋が一体化していた傍証として象徴的である.しかしながら平安時代はその後,どんどん気温が下がっていく.平均気温は2度以上さがったとする説もあり,現在よりも寒冷となった.タロイモ類の種イモは氷点下では維持できないため,生産は壊滅的な打撃を受けたはずである.粗放的に栽培できるタロイモ類が作物として生産できなくなり,麦や粟,ヒエなど他の自給自足作物に頼るほかなくなったことは平安時代の農業改革である施肥の一般化や二毛作などに影響を与え,慢性的な貧困によって社会の混乱と源平合戦に代表される動乱を招いたと考えるのは,物事をイモ中心に考えすぎだろうか?そして再び少し気温が上がり始めた鎌倉・室町時代になると,タロイモ類の名前は「いへいも」に代わって,「里芋」が使われ始める.これは自給自足の作物であったタロイモ類が気候変動によりその立場を追われ,そして再導入されるに至った気候変動史を物語っているのではないか.これもまた,私の妄想である.本当かどうかは歴史学に任せる.私の専門は歴史学でも農学でもない.

畑作か?水田か?

野生化里芋が基本的に水辺を好むことを考えれば,おそらくそれを陸に挙げているのはよっぽどな理由があってのことである.興味深いことに,タロイモ文化圏の北限たる日本における里芋生産は畑作が中心であり,戦前までは焼き畑耕作による移動耕作が行われがちであった.焼き畑を行う原因としては連作障害があげられるが,これにはセンチュウやコガネムシといった害虫の影響が大きい(水田での田芋栽培では知る限り焼き畑はしていない).日本で栽培されている品種は陸の方が好きだからだと,思っていた.しかしながら現在栽培されている畑作用の里芋であっても,水耕栽培したほうが生育も虫害も少ないという意外な実験結果が得られている.それを踏まえて,再考してみる.日本におけるタロイモ類の水田栽培は南西諸島などの温暖な地域にほぼ限局されている.水田栽培のほうが寒さに弱く,嫌気性の泥の中で芋が腐ってしまうからではないかというのが,私の推測である.他にも水生か,畑作かについての疑問はある.南西諸島では畑作の里芋(チンヌク)よりも水生の田芋(ターム)の方が好まれているが,これは単に水条件の悪い環境における代替品なのだろうか.このあたりはよく知らない.

日本における水生里芋

日本においては水生の里芋類作物を田芋,水芋,川芋と混同して読んできた.こうした栽培方法に関する紛らわしいネーミングは,その品種の系統的位置や性質や,なにより食味と一切関連しておらず,オタクだけでなく消費者にとってもありがたくない.

品種名としてもみがしきと溝芋,溝芋と水芋なども音や利用法が紛らわしく,混乱が生じている.さらに「ずいき」のように利用方法を指して呼ぶ呼び名もあり,里芋の呼称はまさにカオスである.そのため,今回は地域名と一般的な呼称を併記した.

蘞芋(本州)

三倍体.葉身は暗い緑,葉縁は細かく波打つ.葉柄はオリーブグリーンで,頸部は僅かに暗い赤色を帯びる.親芋は平たい球形または楕円体,子芋は倒卵形.親芋はえぐみが強くなり食用に適さなくなるが,子芋は僅かに柄組があるものの食用となる.日本の品種群での中でももっともよく開花し,また全国各地にユニークな帰化個体が生息する.品種によってはかつて水芋と呼ばれたものもあるようであり注意を要する.

石芋/弘法芋(本州,四国,九州)

三倍体.蘞芋群の野生化個体である.子芋の形態が異なり,細長い棍棒状となるものが多い.本州でみられる帰化個体の多くはランナーを持たない.野生化した長野県青木村沓掛のものが有名であるが,他に様々な地域に伝承および生えていたとする話が伝わっている.(現存する場所は僅かである)親芋および成長するとえぐみが強くなり食用に適さなくなるが,時期を選んだり,あく抜きをして食用に供することはできたとのことである.弘法大師信仰から手厚く保護されてきたものが多い.

川芋(八丈島

恐らく三倍体,蘞芋群の野生化個体と思う.八丈島の渓流に生育する野生化個体である.短いランナーで増殖することで他の蘞芋群とは異なる.ぼかして書いているのは「八丈島の蘞芋群の野生化個体」と「八丈島のランナーで増殖する川芋」が本当に同じものなのか,個人的な確証が得られていないためである.

からとり芋/山形田芋(山形)

2倍体.親芋および芋がらを食用にする.水田で栽培するタロイモ類としては北限に近い.品種としては唐芋群に属する.からとり芋の茎は濃紫で,唐芋群らしいものであるが,二次的に青茎になったものも栽培されており注意を要する.沖縄や八丈島の田芋類と混同されがちであるが,別系統の栽培種である.

田芋(白茎)(沖縄)

2倍体の親芋を用いる品種.日本で最も生産されている水生里芋である.沖縄における田芋に関しては信頼のおけそうな情報が不足している.この品種が何群に属するのかご存じの方がいらっしゃいましたら教えていただきたい.田芋と称される品種にも様々なものがあるため,難しいところである.収良に優れる白茎の生産が多く,赤茎は稀である.栽培可能北限は薩南である.親芋を利用する品種ではあるが子芋も食用になる.上下を切り落とし,煮てから出荷される.これは生芋が痛みやすく,えぐみがあるためにあく抜きなどの手間がかかるためである.

田芋(赤茎)(沖縄)

2倍体の親芋を用いる品種.南城市で出荷されるが,非常に少ない.歴史事情についてはこちらで書く.沖縄における田芋の記述は18世紀からあり,当時から正月を祝うために用いられていたようだ.収穫時期は主に冬で,沖縄で愛される伝統野菜である.この品種がいったいどの系統にいるのか,白茎との関係がどうなのか.気になる.

水芋(八丈島

沖縄芋や大東芋ともいう.2倍体の親芋型の品種であるが,沖縄の田芋との関連性は勉強不足である.小笠原にも水芋があるが,これとの関係もまだ勉強不足である.

溝芋 (九州・四国)

2倍体の葉柄および親芋を利用する品種.葉柄は浅い灰色がかった緑であり,葉柄を主に利用するほか芋も食用になる.みがしきより葉柄は太く,直立性で背が高い.頸部から抱合部上端までの中央にかけてくすんだ桃色となる.襟掛は桃色で,みがしきより明瞭.福岡,佐賀,広島,岡山などに僅かに分布する.

みがしき(九州南部~南西諸島)

2倍体の葉柄を利用する品種.葉柄は淡緑,頸部の屈曲は緩く,頸部から抱合部の上端までが鮮桃色で,襟掛はきわめて浅い桃色.芽は桃色.古くから栽培され,1800年代の文献にもあるほどだが現在は殆ど生産されていない.関連品種のロフト蕃は台湾に分布し,国内にも導入されている.

檳榔心(檳榔芯)(琉球列島~台湾)

2倍体の親芋を利用する品種.台湾では水田で生産されているとのことだが,沖縄でも生産があるとのことである.別名蓬莱芋だが,子芋を利用する3倍体の蓬莱芋も別にあるので注意が必要.非常に晩生であり,耐寒性が低い南方系の芋である.草姿はやや開帳性で中程度の高さ,葉は濃緑色,葉柄は緑色で上部は赤い.芋の内部の維管束が赤紫色であることが特徴的.子芋の着生数は少なく,小さい.台湾では主に水田で生産されるとのこと.琉球列島でも栽培されるとの記述も見かけたが,沖縄産田芋との関係性について気になる.

琉球青茎(琉球北部)

2倍体の水生雑草であり,えぐみが強く芋がそもそもできないために利用はされない.草姿は蘞芋群に似るが,倍数が異なり由来が異なると考えられる.葉身は丸い心形,濃緑.葉柄は濃い黄緑.ランナーの長さは1m以内.非常に開花しやすく,仏炎苞の上部筒部は薄い黄色である.草丈は50~70㎝.花はよく咲くが不稔であり,花粉の稔性も非常に低い.

琉球赤茎(八重山

2倍体の水生雑草であり,えぐみが強く芋があまりできないために利用はされない.葉身は長い心形,暗緑色.葉柄の上部は暗い赤.ランナーは細長く,長さ2mに達する.開花しやすく,仏炎苞の上部筒部は長く薄い橙黄色.日本の他の品種とよりも,タイやインドネシアタロイモ類との関係が深いとされている.不稔と思われる.

 

参考文献

山口裕文,島本義也.(2001).栽培植物の自然史 野生植物と人類の共進化 151-161.北海道大学図書刊行会.

今知られていること,伝えること「タロイモは語る」東京農業大学「食と農」の博物館 展示案内 No.62.(2012)

熊沢三郎, 二井内清之, & 本多藤雄. (1956). 本邦における里芋の品種分類. 園芸學會雜誌, 25(1), 1-10.

池澤和広, 福元伸一, 遠城道雄, 吉田理一郎, & 岩井純夫. (2014). ポット栽培における湛水処理がサトイモ ‘大吉’(Clocasia esculenta Schott cv.‘Daikichi’) の生育と収量に及ぼす影響. 園芸学研究, 13(1), 35-40.

飛高義雄. (1971). サトイモの品種分類と作型の創設: 昭和 45 年度農業技術功労賞受賞記 (2).

宮崎貞巳, & 田代洋丞. (1992). 江戸時代の農書及び本草書類に記載されているサトイモの品種及び品種群について.

青葉高. (1987). 石芋伝説のサトイモについて.農耕の技術と文化.10,74-88.

西日本における歴史時代(過去1,300年間)の気候変化と人間社会に与えた影響.

 

 

 

 

 

 

 

世界のサジタリア

世界のサジタリアについてザックリとまとめる誰得な記事です.40種だし,なんとかなるだろう? サジタリアは地域ごとにきっぱり分かれるので,地域ごとにまとめます.とはいっても過半数が北米,主にアメリカ合衆国だけに分布するのでアクアリストにはほとんど縁がないのですが・・・.

 

 

アジア温帯~熱帯域のオモダカ

オモダカ Sagittaria trifolia L.

分布 アジア

ランナーの先端に塊茎を付ける.葉は矢じり状.抽水性.花茎は葉および葉柄より短い.側裂片は頂裂片と同長から,それより長い.花の中心は黄色.

ウリカワ Sagittaria pygmaea Miq.

分布 東アジア~東南アジア大陸部

ランナーで増殖し,冬場はランナーの先端に塊茎を付ける.葉はさじ状で,他の種の幼形葉に似る.

アギナシ Sagittaria aginashi Makino

分布 日本,韓国,ロシア沿海州

塊茎は葉腋につき,ランナーはもたない.葉は披針形~矢じり状,抽水性.雌花は有柄.ガクは内側に向けて曲がる.側裂片は頂裂片より短い.花茎は葉よりはるかに長く,オモダカとの良い区別点となるが,めったに咲くことは無い.

シャムアギナシ Sagittaria siamaginashi Shiga & K. Itoh

分布 タイ,ミャンマー

ランナーはないが,上行する短い枝に塊茎を多数つける.野生下では殆ど開花がみられない.この上行する短い枝は花茎と相同であり,条件によって開花もしくは塊茎をつける.

Sagittaria tengtsungensis H.Li

分布 ネパール~雲南省

塊茎は葉腋につき,ランナーはもたない.葉は線形から披針形,雌花は無柄.ガクは内側に向けて曲がる.

Sagittaria potamogetifolia Merr.

分布 中国南部

塊茎は葉腋につき,ランナーはもたない.葉は線形から披針形,ときに矢じり状.開花後にガクは反り返る.

利川慈姑 Sagittaria lichuanensis J.K.Chen, X.Z.Sun & H.Q.Wang

分布 中国南部

塊茎は葉腋につき,ランナーはもたない.葉は矢じり状,雌花は有柄.ガクは内側に向けて曲がる.側裂片は頂裂片より長い.

熱帯系のオモダカ

オモダカモドキ(ナンゴクオモダカ) Sagittaria guayanensis Kunth

分布 世界の熱帯

浮葉を展開する.塊茎はなく両性花をもち,種子で増殖する.種子は休眠性がなく,発芽しやすい.

北方系のオモダカ

カラフトグワイ Sagittaria natans Pall.

分布 ユーラシア大陸北部

葉は矢じり状,水面に浮かぶ.ランナーをもち,その先に塊茎をつける.花茎は葉柄より長く,水面を突き抜ける.

セイヨウオモダカ Sagittaria sagittifolia L.

分布 ヨーロッパ~シベリア

草体はオモダカに似るが,花の中央部は黒い.

 

南米に分布するオモダカ

Sagittaria planitiana G.Agostini

分布 ベネズエラ~ブラジル

抽水葉は円形~心臓形であり、葉柄、花茎の先端部から葉脈にかけて微毛が生える。雄花は糸状の花柄の先につく。オモダカ属の中でも特に奇妙な種。

Sagittaria rhombifolia Cham.

分布 コスタリカ~アルゼンチン北部

非常に多型の種。葉は水上では線形~楕円形で矢じり状にはならない。雌花の花柄が太く、萼は結実期も残り、痩果は花の中央に収束する。

(水中葉が丸い型について)水中葉は8~14.5㎝×2~5.5㎝、10脈の心臓形。抽水葉は線形~円形、6~8脈。

(水中葉が線形の型もある)

Sagittaria sprucei Micheli

分布 コロンビア~ペルー

花芽が非常に膨らみ、節々で細くなる独特の形状をしている。アマゾン川流域およびオリノコ流域に分布する。雌花の花柄は太くなる。

オモダカモドキ Sagittaria guayanensis Kunth

分布 世界の熱帯

浮葉を展開する.塊茎はない一年草

タイリンオモダカ Sagittaria montevidensis Cham. & Schltdl.

分布 南北アメリカ

大型で1mほどになることもある.葉は矢じり状.ランナーで増殖し,球根をもつ.花柄は曲がる.水中葉は線形.花は大型で,果実は直径1.2㎝~2.1㎝.

3亜種に分けられる.S. montevidensis spongiosaは塩性湿地に生息する矮性種で,葉が矢じり状になることはほとんどなく幼形葉のみで生育することもある.

花弁の基部に赤~紫のスポットがあるものをS. montevidensis montevidensis,ないものをカリフォルニアオモダカS. montevidensis calycinaという.

園芸用としてS. montevidensis montevidensisが「タイリンオモダカ」の名で流通しており,栽培は容易.日本産オモダカに比べても丈夫で育てやすく,室内でもよく開花する.広域に分布するが本拠地は熱帯であるため,寒さにはあまり強くなく保温したほうがよい.

Sagittaria latifolia Willd.

分布 カナダ~南米

45㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は矢じり状.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞は1/4~合着し,長円形から披針形,3~8㎜.痩果の嘴は1~2㎜,横に出る.

 

北米に分布するオモダカ

多すぎるのでグループに分け,主にFlora of North Americaの検索表に沿った形で分類できるように最低限の情報を示す.恐らくこれで手を付ける気すら起きないアメリカのオモダカとも戦えるはず・・・

オモダカモドキ Sagittaria guayanensis Kunth

分布 世界の熱帯

浮葉を展開する.塊茎はない

花柄が曲がる北米産オモダカ

ヒロハオモダカ Sagittaria platyphylla (Engelm.) J.G.Sm.

分布 アメリカ東部~中米

大型で1mほどになることもある.葉は線形~さじ状.ランナーで増殖する.花柄は太く,曲がる.水中葉は線形.花は小型で,果実は直径0.7㎝~1.2㎝.痩果の背腹軸にキールを持たない.

園芸で流通する”サジタリア ウェザービアーナ ラタイ便”及び”サジタリア グラミネア クラッシュアイス”は本種である.ナガバオモダカとは花柄を見れば明確に区別可能である.花柄が開花後に下向きに曲がる,北米産でさじ状の葉のサジタリアは本種とS. sanfordiiのみである.しかもS. sanfordiiはカリフォルニアにしか分布しないため,鑑別に悩むことは無いと思われる.葉の概形も異なる.S. gramineaとはランナーを欠くこと,葉の概形が大きく異なる’(S. gramineaは幅3㎝未満と,とても細長い).

栽培は非常に容易で,耐寒性もある.帰化も報告されており,注意が必要である.アクアリウムで同名の植物が流通しているが,アクアリウムで扱われる”Sagittaria platyphylla"が本当に本種なのかはまだ調べられていないが,非常に怪しい.他の種類の打率からすると,たぶん違うに賭けたほうがマシだろう.

生態写真↓

Occurrence Detail 3773710712

詳細な画像↓

http://www.missouriplants.com/Sagittaria_platyphylla_page.html

形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000354

 

Sagittaria sanfordii Greene

分布 カリフォルニア中部

大型で1mほどになることもある.葉は線形~さじ状.ランナーはもたず,株本からわずかに伸びた地下茎の先に丸い球根をつける.花柄は太く,曲がる.水中葉は線形.花は小型で,果実は直径0.7㎝~1.2㎝.痩果にキールを持つ.

ヒロハオモダカS. platyphyllaとよく似るがランナーを持たないこと,痩果の背腹方向にキールを持つこと,分布域で区別される.分布が狭く,絶滅の危機にある.

生態写真↓

Occurrence Detail 3873735274

詳細な画像↓

https://ucjeps.berkeley.edu/eflora/eflora_display.php?tid=42633


形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000356

https://plants.jstor.org/compilation/Sagittaria.sanfordii

タイリンオモダカ Sagittaria montevidensis Cham. & Schltdl.

分布 南北アメリカ

大型で1mを超える.葉は矢じり状.ランナーで増殖し,球根をもつ.花柄は曲がる.水中葉は線形.花は大型で,果実は直径1.2㎝~2.1㎝.

3亜種に分けられる.S. montevidensis spongiosaは塩性湿地に生息する矮性種で,葉が矢じり状になることはほとんどなく幼形葉のみで生育することもある.

花弁の基部に赤~紫のスポットがあるものをS. montevidensis montevidensis,ないものをカリフォルニアオモダカS. montevidensis calycinaという.

園芸用としてS. montevidensis montevidensisが「タイリンオモダカ」の名で流通しており,栽培は容易.日本産オモダカに比べても丈夫で育てやすく,室内でもよく開花する.肥料が大量に必要なのと,高さ60㎝は最低限確保したい.アクロTriangle Brightで開花まで行けることは確認済み.

広域に分布するが本拠地は熱帯であるため,寒さにはあまり強くなく保温したほうがよい.園芸種だけあって花言葉があるらしい.あと,花騎士としてのほうがよっぽど有名である.

筑波実験植物園で観察できる.Charmなどで売られているが,育てているという話を聞かない.良い草なんだけどなあ.

生態写真↓

Occurrence Detail 3759657072

S. montevidensis montevidensisの詳細な画像↓

https://www.fs.usda.gov/wildflowers/plant-of-the-week/Sagittaria-montevidensis.shtml

四季の山野草(タイリンオモダカ)

GKZ植物事典・タイリンオモダカ *原産地は南北ア「メ」リカ.

S. montevidensis calycinaの詳細な画像↓

https://swbiodiversity.org/seinet/taxa/index.php?taxon=28255&clid=2947

形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000349

アメリカウリカワ Sagittaria subulata (L.) Buchenau

分布 アメリカ合衆国東海岸ベネズエラ

主に沈水性で葉は線形.浮葉は稀.小型で大きくなっても40㎝ほど.ランナーで増殖する.花茎は細長く伸び,水面で花を咲かせる.花柄は曲がる.花は小型で,直径0.4~1.2㎝,花柄は0.2~1.1㎝.葉の断面はレンズ状で,主に塩性湿地に生息する.

S. subulata complexに含まれる.葉は短く,ヒメウリカワ,ピグミーチェーンサジタリアとして流通する.

生態写真↓

Occurrence Detail 3759646607

詳細な画像↓

https://gobotany.nativeplanttrust.org/species/sagittaria/subulata/

形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000358

ヒメウキオモダカ Sagittaria filiformis J.G.Sm.

分布 アメリ東海岸

主に沈水~浮葉性で水中葉は線形.浮葉は小型で小判型.大型で長さ170㎝に達する.ランナーで増殖する.花茎は細長く伸び,水面で花を咲かせる.花柄は曲がる.花は直径3㎝,花柄は1.5~4.5㎝.葉は平たく,主に淡水に生息する.

S. subulata complexに含まれる.ヒメウキオモダカはS. subulataの和名として提唱されているが,浮葉をつける性質はむしろS. filiformisの形質であるため暫定的に充てた.日本に帰化しているヒメウキオモダカがS. subulata complexの中でどのような位置にあるかは今後の検討が必要だろう.S. subulata,あるいは流通名”ナタンス”として国内で流通してきた個体群の中に浮葉をつけるものがあったことも確かであり(たとえば「水草のすべて」p.45に記載あり),帰化した個体群はこうした個体群が帰化したものと考えられる.*ところで流通名の「ナタンス」は元々S. subulata var. natans = S. filiformisではなかろうか.そう考えると納得がいく.

生態写真↓

Occurrence Detail 3343752767


詳細な画像↓

https://gobotany.nativeplanttrust.org/species/sagittaria/filiformis/

http://www.southeasternflora.com/view_flora.php?plantid=2069


形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000335

Sagittaria kurziana Glück

分布 フロリダ中部~北部

主に沈水性で水中葉は線形.大型で長さ2mを超える.ランナーで増殖する.花茎は細長く伸び,水面で花を咲かせる.花柄は曲がる.花は直径3㎝,花柄は1.5~4.5㎝.葉は平たく,主に淡水に生息する.

S. subulata complexに含まれる.葉は流水中になびき,しばしば長さ2mを超える.その形態からはサジタリアというよりむしろバリスネリアと似るが,3~5脈の葉脈がはっきりすることや葉の先端が尖り鋸歯を持たないことで区別できる.

生態写真↓

Occurrence Detail 3039337224

https://florida.plantatlas.usf.edu/Plant.aspx?id=1268&display=photos

詳細な画像↓

https://plants.ifas.ufl.edu/plant-directory/sagittaria-kurziana/


形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000343

https://plants.jstor.org/compilation/Sagittaria.kurziana

Sagittaria demersa J.G.Sm.

分布 北ニューメキシコ~メキシコ南東部

主に沈水性で水中葉は線形.60㎝ほどになる.葉の断面はレンズ状から,円形に近くなることもある.ランナーで増殖する.花茎は細長く伸び,水面で花を咲かせる.花柄は曲がる.花は直径1.5~5㎝,花柄は1.5~6.5㎝.

S. kurzianaS. filiformisに似るがより小型で,葉の断面が異なる.S. subulataに比べ花柄は遥かに長い.浮葉を欠く.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000332

花柄が曲がらない+水上葉は線状~さじ状,ランナーを欠き根茎で生育する北米産オモダカ

Sagittaria lancifolia L.

分布 アメリカ合衆国南東部~熱帯アメリ

大型で2mに達する.抽水性で葉はさじ状.根茎で生育し,ランナーはもたず,球根ももたない.花柄はまっすぐ.花糸は有毛.花糸は円錐状.

2亜種がある.葉が細く,苞と花弁に筋が入るものがS. lancifolia lancifolia,葉が太く,苞と花弁の表面が乳頭状のものをS. lancifolia mediaという

地下茎で生育しさじ状の巨大な葉を展開する本種は,まるでエキノドルスのようなサジタリアである.しかし,某サイトの「サギッタリア・ランキフォリア」は本物のエキノドルスである.また,ヒロハオモダカの写真が載っているサイトもある.(ここまで読んでいる方ならヒロハオモダカと本種を間違うことはないだろう)

かつて水草として流通したことがあるのか,「水草のすべて」和泉克雄では「水槽用植物として素晴らしい種類の一つであるが,30~60㎝くらいに成長をとどめて用いるとよいとされている.多量の光を欲する水草でもある」との記載がある.

生態写真↓

Occurrence Detail 3760300627

https://www.gbif.org/occurrence/1848760161

詳細な画像↓

https://www.nparks.gov.sg/florafaunaweb/flora/5/7/5721

https://www.fnps.org/plant/sagittaria-lancifolia


形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000344

 Sagittaria graminea Michx.

分布 アメリカ合衆国東部

比較的小型.根茎で生育し,ランナーおよび球根を欠く.水中葉は線形,水上葉は線形~細長いさじ状.花柄はまっすぐ.花糸は有毛.花糸は膨らんだ形状である.

注意:ナガバオモダカではない.

生態写真↓

Occurrence Detail 3764221208

Occurrence Detail 3947649564

Occurrence Detail 3759831822


詳細な画像↓

https://gobotany.nativeplanttrust.org/species/sagittaria/graminea/


形態記載↓

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000336

Sagittaria chapmanii (J.G.Sm.) C.Mohr

分布 テキサス~アメリカ合衆国南東部

S. graminea  chapmaniiは円錐花序である.DNAからは別クレードであり,別種とすることもある.

https://www.gbif.org/occurrence/3698207142

https://www.gbif.org/occurrence/3352924303

https://www.gbif.org/occurrence/3966580642

Sagittaria secundifolia Kral

分布 アラバマ

流水中に水中葉をたなびかせる.花は数段しかなく,自生地での形質はS. subulata種群に似るものの,花糸は有毛であり根茎が這うことによって増殖し,ランナーを欠く.S. gramineaと近縁だが,痩果によって区別される.

https://www.gbif.org/occurrence/1932302254

↑衝撃的な絵面である.

https://www.gbif.org/occurrence/3785131629

https://www.gbif.org/occurrence/3897771565

https://georgiabiodiversity.org/natels/profile?es_id=21508

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000357

Sagittaria papillosa Buchenau

分布 ルイジアナ~テキサス

1mに達する.地下茎をもち,ランナー及び球根を欠く.水中葉は線形,水上葉は線形~細長いさじ状.花柄はまっすぐ.花糸は無毛.苞の表面は乳頭状.

Flora of North Americaの検索表では花糸に毛を持たないために離れた位置にあるが,地下茎で生育しランナーおよび球根を欠く点でこのグループに入れた.

https://www.gbif.org/occurrence/3070672179

Occurrence Detail 3455208034

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000353

花柄が曲がらない+水上葉は線状~さじ状,ランナーをもつ北米産オモダカ

ナガバオモダカ Sagittaria weatherbiana Fernald

高さ40~90㎝.根茎およびランナーをもち,ランナーの先端に球根をつける.水中葉は線形~長円形の鈍角またはやや鋭くなり,幅1.5~2.5㎝.水上葉は直立する20~45cmの葉柄をもち,基部は太く、株本を広く抱き込む.葉身は長さ12~25㎝,幅2.5~7.5㎝.

長らくS. gramineaのシノニムとされている種.原記載を確認したところランナーを持つなどS. gramineaとは明らかに異なる性質をもち,Flora of North Americaの検索表にかけてみると該当種がなくなってしまった.そのため別種として紹介する.

アクアリウムでSagittaria weatherbianaとして流通するものはどうもヒロハオモダカである.

※ナガバオモダカの学名について

志賀(2010)に従いナガバオモダカは本種に対応するとした.

しかし厄介なことに市販流通するナガバオモダカは雌花しかつけないため,サジタリアの同定に重視されている痩果および花糸が確認できない.通常のS. weatherbianaは雄花も咲き結実もするため,ナガバオモダカを「典型的な」S. weatherbianaとみなすべきではないだろうと思う.

Sagittaria rigida Pursh

分布 カナダ~アメリカ合衆国北部

葉は線形で沈水~抽水性.抽水葉はさじ状,高さ1mに達する.沈水葉は平たくテープ状,長さ70㎝に達する.ランナーで増殖する.球根を持つ.花茎は直立し,水上で花を咲かせる.雌花の花柄はほぼない.雄花の花柄はまっすぐ.花糸は有毛.

本種は雌花の花柄を持たないことで他種から容易に識別できる.

Occurrence Detail 3325651476

Sagittaria rigida (sessile-fruited arrowhead): Go Botany

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000355

Sagittaria cristata Engelm.

分布 西オンタリオ州アメリカ合衆国中東部

75㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水中葉は線形,水上葉は線形~細長いさじ状.花柄はまっすぐ.花糸は有毛.花糸は葯より長い.

https://www.gbif.org/occurrence/3067898688

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000330

Sagittaria fasciculata E.O.Beal

分布 ノースカロライナ州およびサウスカロライナ州

35㎝程度の小型種.ランナー及び球根をもつ.水中葉は線形,水上葉は線形~細長いさじ状.花柄はまっすぐ.花糸は葯より短い.水上葉の幅は0.6~1.5㎝.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000334

Sagittaria macrocarpa J.G.Sm.

分布 ノースカロライナ州サウスカロライナ州

葉は細く,ランナーで増殖する.S. isoetiformisに似る.かつてはS. gramineaと混同されていた.

Sagittaria teres S.Watson

分布 アメリカ北東部

葉は円柱状で沈水~抽水性.抽水葉は長さ60㎝に達する.葉の断面は円形.ランナーで増殖する.球根を持つ.花茎は直立し,水上で花をつける.花糸は有毛.花柄はまっすぐ.痩果にはごつごつとした隆起のあるキールがある.

オモダカというよりも,ミズニラかなにかからオモダカの花が咲いているような植物である.アクアリウムでは同名でS. subulata complexのなにか(アクア業界では”Sagittaria microfolia"ともよばれたりする)が流通している.同様のものは「水草のすべて」にも記載があるため,かれこれ50年以上は誤った名前で流通していると思われる.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000359

Sagittaria isoetiformis J.G.Sm.

分布 アメリカ合衆国南東部,キューバ西部

65㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水中葉は線形,水上葉は線形~細長いさじ状.花柄はまっすぐ.花糸は有毛.花糸は葯より短い.葉はほぼ棒状,水上葉の直径は5㎜未満.痩果のキールは顕著であるが,隆起は少ない.

本種およびS. teresは水上葉がほぼ線形であり到底オモダカらしからぬ姿をしているが,本種は葉が平たくS. teresでは円柱状である,(どちらも円柱状とする場合もあり)痩果のキールによって区別できる.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000342

Sagittaria ambigua J.G.Sm.

分布 アメリカ合衆国内陸部(西バージニアオクラホマ

90㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は線形~さじ状.花茎は葉と同長からやや長く,1節に3輪ずつ咲く.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞の表面は乳頭状でない.葉柄は直立する.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000327

 

花柄が曲がらない+様々な姿になる,ランナーをもつ北米産オモダカ

Sagittaria cuneata E.Sheld.

分布 北米

110㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は線形~矢じり状で,非常に多型.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞の表面は乳頭状でない.葉柄は下向きに垂れ下がっていることが多く,深い水域ではしばしば浮葉性となる.水中で長い水中葉を出して生育する場合もある.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000331

花柄が曲がらない+矢じり状の葉をもつ北米産オモダカ

Sagittaria engelmanniana J.G.Sm.

分布 カナダ南東部~アメリカ合衆国東部

70㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は矢じり状.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞は合着しても1/4未満.花は1節あたり2~4ずつ.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000333

Sagittaria australis (J.G.Sm.) Small

分布 アメリカ合衆国東部

130㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は矢じり状.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞は合着しても1/4未満.花は1節あたり5~12ずつ.葉柄は有翼.痩果の嘴は側方から出て強く曲がり,4~17㎜.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000328

Sagittaria brevirostra Mack. & Bush

分布 アメリカ合衆国東部,カナダの一部

70㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は矢じり状.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞は合着しても1/4未満.花は1節あたり5~12ずつ.葉柄はリッジをもつが,有翼とまではいかない.痩果の嘴は曲がらず,0.4~1.7㎜

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000329

Sagittaria latifolia Willd.

分布 カナダ~南米

45㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は矢じり状.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞は1/4~合着し,長円形から披針形,3~8㎜.痩果の嘴は1~2㎜,横に出る.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000347

Sagittaria longiloba Engelm. ex J.G.Sm.

分布 アメリカ合衆国中部~ベネズエラ

100㎝に達する.ランナー及び球根をもつ.水上葉は矢じり状.花柄はまっすぐ.花糸は毛をもたない.苞は1/4~合着し,披針形,6.5~15㎜.痩果の嘴は0.1~0.6㎜,曲がらない.

http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=222000348

 

未整理・情報収集中

Sagittaria intermedia Micheli

分布 南東メキシコ,北コロンビア,カリブ海地域

Sagittaria macrophylla Zucc.

分布 メキシコ西海岸

 

全体通じて参考になるリンク↓

雑草徘徊記

 

 

日本のトリゲモ属の私的検索表

今年は日本のトリゲモ属を全種見ることができました.

ヒロハホッスモとムサシモに関しては自生地を見つけることはできなかったものの,栽培された個体を見せていただくことができました.本当にありがとうございました。.

 

それらを踏まえると,日本のNajasは以下のように検索できるのではないかと思いました.あくまで実物を見た上での私の個人的な感想なので,参考までにとどめてください.また,素人が布教のため書いていますので表記上不適切な部分があるかもしれません.

 

 

1 草体は大型,茎に棘をもつ・・・2

1 草体は小型,茎に棘はない・・・3

2

葉の棘の数は片側5以上・・・イバラモ Najas marina

葉の棘の数は片側5以下・・・ヒメイバラモ Najas tenuicaulis*1

葉鞘はすべて斜めに切れ,種子は太く表面に粗大な格子をもつ

・・・サガミトリゲモ Najas chinensis*2

葉鞘は斜めに切れ,鋸歯は1細胞で極めて小さく,肉眼上で殆ど葉の鋸歯を目視できない.ほとんど種子をつけることはなく,根は貧弱

・・・Najas guadalupensis guadalupensis *3

葉鞘は斜めに切れないものがある・・・4

4

葉鞘はすべての葉において著しく突出し,先端は尖って見える

・・・ホッスモ Najas graminea

種子は顕著に曲がる.葉鞘は切り形.小型だが硬く,水から挙げても形態を保つ

・・・ムサシモ Najas ancistocarpa

種子には粗大な格子があり,専ら汽水に生息し,葉鞘はやや突出する.鋸歯は1細胞からなるも明瞭.

・・・ヒロハホッスモ Najas guadalupensis floridana*3

種子の先端は曲がらず,表面には薄い縦長の格子があり,艶を帯びる.・・・5

種子の先端は緩く曲がり,表面には顕著な横長の微細な格子があり,艶消し状となる

.・・・6

5

種子はふつう2つずつつき,水田などの浅い富栄養水域に生息する.小型.・・・イトトリゲモ Najas japonica*4

種子はふつう1つずつつき,深い貧栄養湖に生息する.大型・・・イトイバラモ Najas tenuissima

6

葉鞘は茎の上下を問わず,明瞭に切型.雄花は容易に発見でき,葯室は4.表皮細胞は縦長な傾向をもつ・・・オオトリゲモ Najas oguraensis

葉鞘は変異に富み,同じ草体でも様々な形をとる.雄花は微細で発見は困難.葯室は1.表皮細胞の縦横比はオオトリゲモに比べると小さい・・・トリゲモ Najas minor

 

*1 ヒメイバラモは自生地を見ての印象では別種たりえないのではないかと思った.同一の栽培条件下で比較検討する必要性を感じるが,種の保存法指定種のためそれも困難となってしまっている.この種を「種」として認識するのであれば,たとえば琵琶湖と芦ノ湖のイバラモは別種とせねばならないだろうし,世界のイバラモには大分割が必要になるのではないかと思う.遺伝子にせよ形態にせよ,包括的な再検討が必要だろう.

*2 Najas foveolataがあてられることがある.現状でN. foveolataN. indicaのシノニムとされているが,N. indicaはサガミトリゲモとは全く異なる種類である.日本産のサガミトリゲモはN. chinensisである.

*3 ヒロハホッスモはアクアリウムで流通するN. guadalupensisとの混同がみられるが,両者は明らかに異なっているため別に扱う.知る限りヒロハホッスモがアクアリウムプラントとして輸入・流通されるのは確認できない.

*4 N. gracillimaアメリカ西海岸に分布しないことからすると,イトトリゲモとN. gracillimaの異同に関しては微妙な点があるかもしれない.(本州での分布を見るに,周極分布するとも思えない)N. gracillimaの図では種子が2つずつ着いていないことも多く,暫定的に別種とみなした.そのため見慣れない学名となっている.

**ヒロハホッスモ,イトイバラモ,トリゲモにおいて葉鞘が突出して見える場合がある.ホッスモの葉鞘の突出は顕著であり別格であるが,その他3種における突出は五十歩百歩といったところである.そのため「葉鞘が突出する」ことは強調しなかった.

またムサシモ,オオトリゲモ,トリゲモ,ヒロハトリゲモにおいて葉のカールは顕著であるが,成長期には必ずしもそうでない.そのためこれは同定形質に含めなかった.

トリゲモ Najas minor を肉眼で見分けたい!!

トリゲモ類が出たとたんにNajas sp.でストップしてしまうのは本当に困りものです.

さらに,葯室を見る以前に雄花を探すのがトリゲモにおいては極めて難しい…

表皮細胞の縦横比で鑑別することができることはMiki(1935)においても指摘されていますが,Midorikawa et al., 2020で統計的に検証され標本の鑑別に有効であることが示されました.

しかしやはり肉眼で見分けられないというのはもやもやします.なにぶんとっつきにくい.興味を持ちにくい,持たれにくい.

トリゲモ Najas minor


トリゲモはオオトリゲモに酷似している.オオトリゲモの葉鞘は直角に切れているからトリゲモもそうなはず…と思いきや,実際繋がった株を見てみるとむしろ,突出して見えるものが多い.アメリカの図説だとどうみても葉鞘が突出した図版が載せられていたりするし,三木の図版でもそう見えなくもない.

↑著しく葉鞘が突出したN. minor

 

↑ Miki(1935)におけるN. minorの葉鞘

 

Merilainen, 1968におけるN. minorの図版

トリゲモは葉鞘に非常に変異が大きいといった方がよさそう.

ちなみに,↑の図版ではイトトリゲモとトリゲモが比べられているが,図に示されているようにトリゲモやオオトリゲモのタネがゆる~くS字型に曲がるのは日本でもアメリカでも同じらしい.(北米東海岸とヨーロッパのN. gracillimaとアジアのN. gracillimaが同じなのかどうかはさておき)

イトトリゲモと形態が類似し,また葉鞘とサイズと好む場所がトリゲモとそっくりなイトイバラモとの肉眼的な鑑別には役に立つはず.以前にも同じような比較をしている.

↓イトイバラモの種子は黒光りしていて短くまっすぐ.トリゲモは緩く湾曲し艶消し

イトイバラモとトリゲモの種子

 

↓それに対してオオトリゲモ N. oguraensisはこう.

オオトリゲモ Najas oguraensis

オオトリゲモ Najas oguraensis

比べてみると結構違うという感じがする.

でもトリゲモはあくまで「葉鞘に変異が多い」ので,これだけでトリゲモとオオトリゲモを判断するのはお勧めできない.いや,やめた方がいい.

だって三木茂だってこう書いている.

It resembles a larger form of Na jas minor ALL. but distinguished by 4-celled anther, large leaf epidermal cells twice in diameter and 2 hypodermal layers in stem.

葉鞘に関しては一見して異なるようにみえる図を示しているにもかかわらず,違いとして記載はしていないのだ.

やっぱり,こういうやつを見たら顕微鏡を覗かなければいけないのか….

 

Miki, S. (1935). New water plants in Asia Orientalis II. Shokubutsugaku Zasshi49(587), 773-780.

Midorikawa, S., Shutoh, K., & Shiga, T. (2020). An easy method of identifying herbarium specimens of Najas minor and N. oguraensis (Hydrocharitaceae). Acta Phytotaxonomica et Geobotanica71(1), 55-63.

Meriläinen, J. (1968). Najas minor All. in North America. Rhodora70(782), 161-175.

 

 

 

 

 

悩ましいポタモゲトン

 

今年の積み残し課題.

よくわからないPotamogeton...よく見かけるツツイトモではないし,ツツミズヒキモでもなさそう.な気がする.葉鞘はとても軟弱.イトモっぽい気もしたけれど柔らかく葉は長め.そもそもイトモがいそうな環境には見えなかった.葉はよくみると3脈.

殖芽か花があればなんとかなるのになあと思ったのだが,うまくいかなかった(ツツイトモやツツミズヒキモなら殖芽を作りそうな条件なのに,作らなかった…).

よって謎のまま.来年は花か殖芽を観察したいものである.