水草オタクの水草がたり.

水草を探して調べるブログです.素人ながら頑張ります.

ニードルリーフルドウィジアもどき~Ludwigia arcuata × brevipesと思われる個体~

こんなツイートを目にした.

 

 

そういえばカッセルマンのAquarium plantsに載ってたLudwigia arcuataもブレビペス的な謎な植物だったし,花も怪しかったよな.(L. arcuataは花弁の柄が凄く長くて,花柄が凄く長くて,打ち上げ花火みたいなんです.)

 

というわけで,春に海外鉛巻きでニードルリーフとして入荷した変なルドウィジアを入手していたので,計測データを挙げようと思う.

 

水中,水上葉ともに一見したところブレビペスなのだが,水上水中ともに間延びする.花はニードルリーフっぽい印象であるが,花柄が妙に短い.

計測してみることにした.

 

全草 無毛で光沢がある.花部のみ艶がない

水上葉 30㎜×7㎜

(L. arcuata; 6-18×1.2-5,L. brevipes; 10-17×2-10)

ガク 約7×2.5㎜

(L. arcuata; 5.2~10×1.5-2.7,3~4:1,L. brevipes; 4-5×1.7-2.8,2:1 )

花弁 あり 約8×5㎜

(L. arcuata; 7-11,L. brevipes;4.5-5.2)

葯 約1.5㎜

(L. arcuata; 1.3-2,L. brevipes; 4.5-5.2 )

花糸 約3㎜

(L. arcuata; 2.5-4.5,L. brevipes; 1.8-2.5)

花粉 未観察

花柱 約2㎜

(L. arcuata; 2.3-4,L. brevipes; 1.1-1.7)

蜜腺の高さ 約0.7㎜

(L. arcuata; 0.6-1,L. brevipes; 0.55-0.7)

子房長 4㎜ 観察する限り不稔,結実せずに黄色くなり花柄ごと脱落する

花柄 13㎜

(L. arcuata; 17-45,L. brevipes; 6-15)

小苞 2㎜~4㎜

(L. arcuata; 1.4-5,L. brevipes; 1-3)

 

ぱっと見の通り,花の計測値はだいたいニードルリーフだが,花柄が短い.

不稔であることから雑種であろうと思われる.

L. brevipes×L. palustris,L. arcuata×L. repens,L. brevipes×L. repensは花がより小さいし,花柄や花弁がこんなに長くなるとは考え難い.特にL. repens×L. arcuataは所謂並ルドウィジアなので,これとは違う.

 

L. palustris×L. repensも似た数値を示しうるようだが,イマイチ記述が少なくてこれがどういう雑種なのかよくわからない.水中葉の挙動などからするとL. brevipesっぽい部分が多いため,暫定的にL. brevipes×L. arcuataと推定する.L. palustris×L. arcuataにしても,L. arcuata×L. brevipesにしてもこんなものは自然界ではあまり知られておらず,実験的な交配により僅かに知られるのみである.ファームでの杜撰な管理により生じた雑種が増殖し,元々の親種を食いつぶしてしまったのだろう.

困ったものである.

ポタモゲトン雑種の表

  ナガバエビモ ヒロハノエビモ ホソバヒルムシロ エビモ エゾノヒルムシロ ガシャモク ヒルムシロ ヒルムシロ フトヒルムシロ ササバモ センニンモ ツツイトモ ヤナギモ ホソバミズヒキモ イトモ コバノヒルムシロ エゾヤナギモ イヌイトモ  
ナガバエビモ ナガバエビモ cognatus griffithii undulatus vilnensis jutlandicus vepsicus                        
ヒロハノエビモ cognatus ヒロハノエビモ prussicus cooperi ササエビモ salicifolius       オオササエビモ ヒロハノセンニンモ mysticus              
ホソバヒルムシロ griffithii prussicus ホソバヒルムシロ olivaceus nericius 角野,飯田2021 nerviger exilis                        
エビモ undulatus cooperi olivaceus エビモ   cadburyae clandestinus         Jones & Thum, 2021            
エゾノヒルムシロ vilnensis ササエビモ nericius 角野,飯田2021   エゾノヒルムシロ ツガルモク sparganiifolius Du et al., 2010a                      
ガシャモク jutlandicus salicifolius nerviger cadburyae ツガルモク ガシャモク fluitans     インバモ                  
ヒルムシロ vepsicus   exilis clandestinus sparganiifolius fluitans ヒルムシロ Yang et al., 2016     ノモトヒルムシロ     ヒメオヒルムシロ          
ヒルムシロ         Du et al., 2010a   Yang et al., 2016 ヒルムシロ   アイノコヒルムシロ       Ito & Tanaka, 2013,角野,飯田2021        
フトヒルムシロ                 フトヒルムシロ                    
ササバモ   オオササエビモ       インバモ   アイノコヒルムシロ   ササバモ サンネンモ                
センニンモ   ヒロハノセンニンモ         ノモトヒルムシロ   サンネンモ センニンモ   アイノコセンニンモ          
ツツイトモ   mysticus   Jones & Thum, 2021             ツツイトモ ツツヤナギモ ツツミズヒキモ Du et al., 2010b   Yang et al., 2016    
ヤナギモ                     アイノコセンニンモ ツツヤナギモ ヤナギモ オオミズヒキモ アイノコイトモ   角野,飯田2021    
ホソバミズヒキモ             ヒメオヒルムシロ Ito &Tanaka, 2013       ツツミズヒキモ オオミズヒキモ ホソバミズヒキモ 角野,飯田2021 hubeiensis      
イトモ                       Du et al., 2010b アイノコイトモ 角野,飯田2021 イトモ     Aykurt et al., 2017 
コバノヒルムシロ                           hubeiensis   コバノヒルムシロ      
エゾヤナギモ                       Yang et al., 2016       エゾヤナギモ    
イヌイトモ                             Aykurt et al., 2017      イヌイトモ  
                                       
                                       
ITO, Y., & TANAKA, N. (2013). Additional Potamogeton hybrids from China: Evidence from a comparison of plastid trnT-trnF and nuclear ITS phylogenies. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica, 64(1), 15-28.                    
Du, Z. -Y.,C. -F.Yang, J.-M. Chen & Y.H.Guo.2010a.Identificationof hybrids in broad-leaved Potamogeton species (Potamogetonaceae) in China using nuclear and chloroplast DNA sequence data,Pl.Syst.                      
Du, Z. :Y., C. -F.Yang,J.-M. Chen & Y.-H.Guo. 2010b, UsingDNA-based techniquesto identifythe hybrids among the lineaFleavedPotamogeton plantscollected inChina.J,Syst.EvoL,48: 265-270,                      
Jones, A. R., & Thum, R. A. (2021). Molecular confirmation of hybridization with invasive curly-leaf pondweed (Potamogeton crispus) in the Sacramento–San Joaquin Delta, California. J. Aquat. Plant Manage, 59, 1-6.                    
Aykurt, C., Fehrer, J., Sarı, D., Kaplan, Z., Deniz, İ. G., Aydemir, E., & İmir, N. (2017). Hybridization between the linear-leaved Potamogeton species in Turkey. Aquatic Botany, 141, 22-28.                      
Yang, T., Zhang, T. L., Guo, Y. H., & Liu, X. (2016). Identification of hybrids in Potamogeton: Incongruence between plastid and its regions solved by a novel barcoding marker PHYB. PLOS one, 11(11), e0166177.                    
                                       
                                       
                                       

ポタモゲトンの雑種...

日本に産するヒルムシロ属とその交雑種



ポタモゲトンの雑種があまりに多すぎてむしゃくしゃしてきたので,こんなの作ってみました.日本に産するポタモゲトンと,それらの交雑による雑種の表です.

学名で表記されているのは海外(主にヨーロッパと中国)のもの,和名は日本からも知られるもの,記載論文のみ載せてあるのは名前が知る限りないものです.

両親の性別が1パターンしかわかっていないものに関しても,両側に名前を記述しています.これは同じ交雑親に由来する雑種は同じ学名が用いられるため,将来的に逆の組み合わせが発見されたとしても同じ名前になるためです.同様に,まだ名前がついていない雑種に関しても文献名を両側に書いています.

まだ空欄が多いですが,将来的にこれがかなり埋まってくるのではないかと思っています.たとえばフトヒルムシロやササバモ,センニンモ,ヒルムシロは空欄が目立ちますが,これらは分布が日本を中心とした東アジアに限られており,広葉系ポタモゲトンの雑種について詳しく調べられてきたヨーロッパには分布していないためです.

細葉系ポタモゲトンに関してはそもそも違いを議論することが難しく変化も連続的であるため,無視されたり,それ以上の追及が難しいために放置されてきたと思われます.細葉系ポタモゲトンの雑種は日本でこそアイノコイトモをはじめとして注目の的となってきましたが,ヨーロッパではそこまででもなさそうです.

細葉系ポタモゲトンに関しては姿が脳裏に浮かぶもののそれが何なのかいまいちよくわからないものが幾つか思い当たります.それらはいったい,どの組み合わせなのかと思うとわくわくしますね.

そもそも,日本に分布するポタモゲトンは本当にこれらだけなのでしょうか?日本海を跨いだ中国やロシア沿海州に分布がある広域分布種であるにもかかわらず,日本には今のところ確認されていないものに関しては探してみる価値があると私は思います.

 

さて,予想でもしてみましょう.

ヒルムシロはその姿にもかかわらず,広葉系・浮葉系のポタモゲトンと幅広い親和性がありそうです.ヒロハノエビモ,フトヒルムシロとの交雑種はそう遠からず見つかるのではないかと期待します.沈水葉はもっとちゃんと見ないとですね.一方でホソバミズヒキモとも交雑することから,とんでもない雑種がどこかで生じている可能性は十分あると思います.ホソバミズヒキモと同様に広葉系との親和性がある程度ありそうなヤナギモとの雑種がまだ報告されていないのは,分布が被らないためでしょうか…いつか,どこかで見つかりそうな気がします.

ヒロハノエビモとヒルムシロの雑種はそのうち見つかりそうな気がします.これだけ色々なものと交雑するヒロハノエビモですから...

フトヒルムシロは分布が東アジア限定かつ,変な場所に生えているので交雑しにくそうですが,どこかにありそうな気がします.どんなものになるのか楽しみですね.

エビモ×ササバモ,エゾノヒルムシロ×ササバモ,オヒルムシロ×ササバモもあり得そうですが,大きいだけに有ったらもう有名になっていそうですね.

 

さて,夢を語っても仕方がないのでフィールドに出向くことにしますか.

まだ見ぬポタモゲたちを求めて.

 

 

 

エキノドルス② アクアリウムで栽培されるエキノドルス

エキノドルス,第二弾はエキノドルス全体の系統関係についてです.

極めて多くの改良品種が存在するエキノドルスですが,いったい何と何が交配されたのか,何が親なのかという点に関してはファーム側の自称に留まっているのがアクアリウム業界における現状です.大同小異な改良品種の乱発,同じロットの筈なのに品質が安定しないのは当たり前(まあ水草ですからね...)といった状況にあるのですが,エキノドルス全体とともに改良品種にも遺伝子的にメスを入れたLehtonen &Falck(2011)が面白かったので紹介してみようと思います.

改良エキノドルスは交雑種であり,単純に遺伝子を比較するだけでは答えにたどり着くことは困難です.またファームにより主張されてきた親種に関しても,本当にその組み合わせであったのかは疑問があります.

そのためLehtonen &Falck(2011)では改良エキノドルスの両親を推定し,その間の系統関係を推定しています.

両親の推定には葉緑体DNA及び核DNAが用いられました.一般的に葉緑体は母系遺伝であるため,葉緑体DNA(psbAとtrnHの間にあるノンコード領域が用いられました)と核DNA(LEAFYの2番目のイントロンが用いられました)の比較を行い,葉緑体DNAと核DNAがともに近い方が母親,そうでない方が父親と推定されました.DNAの比較にはDNAクロマトグラムの蛍光ピークが用いられ,親種に関しては先行研究で得られたデータベースとの照合により推測されました.推測された両親の形質をもとに各雑種の形質をコード化し,遺伝子及び形態に基づいた系統樹が作成されました.メソッドはかなり端折っているので,詳しいところは本文を参照してください.

 

さて,一般に栽培されるエキノドルスは3つのグループに分けられました.E. grisebachii(アマゾンソードの類)及びE. subalatusに近い一群,E. glaucusと姉妹関係にある一群です.

アマゾンソードに近い一群

E. grisebachii, E. amazonicus, E. amphibus, E. parviflorus, E. heikobleheri, E. bleherae, E. gracilis

E. grisebachiiとそれに近縁な種の間では遺伝子的に顕著な差は認められませんでした.広葉のものに比較して細葉のものでは葉緑体DNAに短い配列の逆転がみられたものの,種内変異でもしばしば認められ,また発生頻度が高く同形形質となりやすいことから系統解析では重視されない変異のようです.そのため,E. grisebachiiを細分化することは結局できませんでした.さらに,Kleiner Bär (スモールベア)の片親は従来言われていたようなE. parviflorusではなく,他のグループとの交雑の証拠は確認できませんでした.

E. subalatusに近い一群

E. major, E. decumbens, E. palaefolius var. latifolius

E. palaefolius var. latifoliusおよびE. inpaiは非常に近縁であることが示唆され,同種である可能性もあるようです.

E. glaucusと姉妹関係にある一群

アクアリウムで重用される殆どのエキノドルスがこの一群に含まれ,また観測されたすべての交雑種はこの一群に含まれました.非常に多様な形態を持つにもかかわらず遺伝的には近縁であることが知られており,恐らくこの範囲を超えると交雑が起こらないのではないかと推測されました.

 

 

 

エキノドルス① ホレマニーとはいったい何なのか

エキノドルスについて書こうと思います.

得意分野ではありませんが,嫌いではありません.書かなかった理由としては高額商品が多いことやまだ熱量をもったファンがある程度の数いるため,下手なことを書くとどんな批判を呼ぶかわからなくて怖い…ためやらなかったのですが,ついに決心がつきました.

 

というわけで第一回では

ホレマニーって何

ということについて述べていこうと思います.

いきなり爆弾タイトルですね.誰もが気になっていたタイトルなんじゃないでしょうか.

 

種について語るには,原記載とホロタイプに当たるのが手っ取り早いです.というわけでホレマニーの原記載を見ていきましょう.

最初にお約束事として,ラテン語,英語,ドイツ語から翻訳して日本語に直して書いていますので誤訳がある可能性が十分有ります.原文はソースからたどり着けると思うので,余力のあるかたはチェックしてみてください.

 

New Species of the Genus Echinodorus from South Brazil (1970) 

Echinodorus horemani Rataj

ホレマニーのタイプ標本.これが基準

原記載におけるホレマニーの葉.なぜかA, B(オシリス)の間にC(ホレマニー)が挟まっており紛らわしい.

シノニム

Echinodorus undulatus Hort. Catal. Lotus Osiris, Mage, Brazil, 1967. (nomen nudum)

形態記述

葉は有柄,沈水性,膜質,長さ30~40㎝,柄は12~19cm,葉身長15~20㎝,葉身幅2.5~3.5㎝,光沢のある暗緑色,両側が尖った披針形.主脈は5本,偽羽状脈,Pellucid markingsなし.花序は総状花序,3~5輪生,離生.苞は披針形,長さ2㎝,花弁は白色.雄蕊18本.

ホロタイプ

Brazil, Parana, Ponta Grossa, 8. 11. 1967, HOREMAN, PR: 27 0203

備考

全草が知られていないが,沈水葉は既知の種と大きく異なるため新種であることに疑いはない.(要旨より)E. horemaniE. osirisとともにみられるが,よりずっと珍しい.E. osiris及びE. uruguayensisとは沈水葉の緑色の違いとPellucid markingsの欠如によって区別される.E. majorとは濃い緑色,膜質の葉,雄蕊の数によって区別される.E. majorは革質の淡黄緑色の葉を持ち,雄蕊は12本.

訳注

要旨,記述ではスペルがE. horemaniとなっているが図の注釈ではE. horemanniとなっている.比較ではE. maiorと書かれているが,E. majorの誤植とみられるため直した.

 

 

 

Alismataceae of Brazil (1978)

Ratajは1978年にAlismataceae of Brazilにてホレマニーについて述べている.少し追加情報がある.

Echinodorus horemanii Rataj Folia geobot. phytotax . Praha, 5-214-5 , 1970

シノニム

Echinodorus undulatus Hort. Catal. Lotus Osiris, Mage, Brazil, 1964. (nomen nudum)

形態記述

茎は上行(もしくは垂れ下がる),20~35㎝.花序は総状花序,2~4段,各段に6~12花をもつ.苞及び花柄はE. uruguayensisに似ている.花は白色,雄蕊は18,痩果は長さ2~3㎜,短い嘴をおよび3~6の腺点をもつ.水中葉は有柄,沈水性,膜質,長さ30~40㎝,柄は12~19cm,葉身長15~20㎝,葉身幅2.5~〔3.5〕㎝,光沢のある暗緑色,披針形~長楕円形,両側が尖る.主脈は通常5本,偽羽状脈.水上葉は有柄,柄は葉身より長く葉身は楕円形~卵形.水上葉,水中葉ともにPellucid markingsなし.

ホロタイプ

Brazil, Parana, Ponta Grossa, 8. 11. 1967, HOREMAN, PR: 270203

備考

E. horemaniiE. osirisとともにみられるが,よりずっと珍しい.E. osiris及びE. uruguayensisとは沈水葉の緑色の違いとPellucid markingsの欠如によって区別される.E. majorとは濃い緑色,膜質の葉,雄蕊の数によって区別される.E. majorは革質の淡黄緑色の葉を持ち,雄蕊は12本.

 

茎及び花,水上葉について加筆されたほか,全草の図がついた.

 

Echinodorus Die beliebsten Aquarienpflanzen (2001)

Echinodorus uruguayensis Arechavaleta var. minor Kasselmann

E. uruguayensisとは水中葉が高さ10~30㎝であることで異なる.

ホロタイプ

Brazil, State of Parana, Rio das Flores,(ネット上に公開するので座標伏せました),August1, 1995, Kasselmann 501, Botanicau Museum Berlin.

記述

高さ10~30㎝と通常のものに比べずっと小さい.水中葉は柄部~5㎝,葉身長10~25㎝,葉身幅1~2㎝,淡緑色.水上葉は非常に高湿度にしないと栽培できない.他のウルグアイエンシスと比べて栽培しにくく,クレイを足すなど栄養を多くしたり,強い光が必要となる.Wanke & Wanke(1994)はRio Peixeで緑色の個体群と赤色の個体群が混在しているのを確認している.筆者はE. uruguayensisを南ブラジル,アルゼンチン北部,ウルグアイの様々な地点で調査した.浮葉の形成は稀であり,その条件は明らかでない.

よく似た形態,生態をもち葉が濃いオリーブグリーンや濃赤色の個体群はE. horemaniiとして以前知られていた.これは葉身の透明な線(訳注:Pellucid markings)の欠如によっても特徴づけられるとされてきた.Hoeschstetterのファームでは自家受粉と播種によりこれが明らかに雑種である事が示された.ホレマニーはブリーダーによって交配の種親としても用いられてきた.

 

An Integrative Approach to Species Delimitation in Echinodorus (Alismataceae) and the Description of Two New Species(2008)

2008年のLehtonenによるエキノドルスの総説ではホレマニー,ウルグアイエンシス,オシリスについて少し述べられている.

 Echinodorus horemanii Rataj (1970a: 214 - 215; 1975: 43; 2004: 72). 

記述

Rataj 1970aではE. uruguayensisを3種(E. uruguayensis,E. horemanii,E. osiris)に分けている.これらの記述は若干異なっているが,タイプ標本はE. uruguayensisの原記述に基づいて分けることができない.そのためこれら3種はE. uruguayensisのシノニムとみなされる.

 

2017年にSomogyiによってホロタイプの誤記述が指摘されている.

NOTES ON SOME RATAJ’S NAMES IN THE GENUS ECHINODORUS (ALISMATACEAE)(2017)

Echinodorus horemanii Rataj (1970: 214–215 as “horemani”)

ホロタイプ 

PR270203/10233

Brazil, Paraná, Ponta Grossa, 11. 8. 1967

記述

Thomas HoremanはJoachim Schulze, Michael Bleherとともにブラジルを探検した.Schulzeによればこの探検は1967年8月のことである.Schulzeはこの時採集された植物園向けの標本の写真を撮影,出版しており,これらの標本のラベルは11.8.1967とある.したがって,E. horemanii, E. opacus, E. osirisのラベルは11. 8. 1967であって8. 11. 1967ではない.E. horemaniiE. uruguayensisのシノニムである.

 

 

 

結局ホレマニーとは何なのだろうか?

ホレマニーグリーンについて

まず最初に書いておきたいのが,Horemanが採集し,Ratajが記載したホレマニーはいわゆるホレマニーグリーンであって(ある情報筋では所謂座標軸そのものなのだとか),色付きのホレマニーではないということである.

非常に残念なことに,Lehtonen & Falck (2011)のような交配親の推定実験には緑系のホレマニーが使われていない.(使われたのはホレマニーレッドだが,交雑が推定されたうえに...という感じ.この辺は改良品種エキノについて掘り下げるときに書かねばと思っている)さらに,Kasselmannの「ホレマニーは交雑であった」という一文もいったいどんな「ホレマニー」の自家受粉をさせたのかどうか,私には読み取れなかった.しかもKasselmannはその1文前に「濃いオリーブグリーンや濃い赤のもの」とホレマニー(と呼ばれたもの)について書いているので,ホレマニーグリーンについて実験が行われたかはかなり怪しい.

そもそもホレマニーグリーンにこんなに注目して維持しているのは日本くらいかもしれないので,ぜひとも維持されていきたいところである.

 

また,ホレマニーとはRatajがつけた名前なので,Ratajがホレマニーと呼んだ個体について議論することが必要である.Ratajは「深緑色である点でウルグアイエンシスと異なる」旨のことを書いており,茶色だったりオリーブグリーンだったり赤かったりするものに関しては原記載では言及していない.つまり深緑のものこそ真のホレマニーとして扱うべきであって,ここから下に私が考察する内容では赤かったりオリーブグリーンだったりする個体群に関しては一切無視して扱うこととする.

 

結局,ウルグアイエンシスなのか?

Lehtonen(2016)には「典型的なウルグアイエンシス」とまで書かれてしまったホレマニーのタイプ標本なのだが,Ratajのホレマニーに関する記述や,Kasselmannのウルグアイエンシスミノールに関する記述は栽培者の感覚と非常にしっくりくるのではないだろうか?つまりこれらは深緑系であって,水上では成長が滞る.

Rataj(1978)ではウルグアイエンシスについても述べているが,ウルグアイエンシスの水上葉の葉身は7.5~13㎝×2~4.5㎝と書いており,Ratajの認識したウルグアイエンシスは水上葉の長い(日本のアクアリストが考える)ウルグアイエンシスであろうと思われる.ウルグアイエンシスをはじめとしたエキノドルスの「ポピュラーな」グループに関しては交雑種も稔性をもつため複雑な交雑が自然界でも栽培下でも繰り返され,もはや種の概念も朧げであるように思われる.そのため現状を把握することは困難で,単純に遺伝子を比較するだけでは答えは出ないだろう.(この辺はのちに記事にしたい)深緑系という性質が種を超えて一部地域に固まっているように見えることからは,特定の種の組み合わせによる交雑の発生によって各種の深緑系が生まれているのではないかという想像が容易に頭に浮かぶ.

なんかしらの交雑による遺伝子の組み合わせによって所謂ホレマニーグリーンらしい,Ratajが書いたような表現型が生まれているのならば,すくなくとも名前としては分けて扱うべきだと思う.変種くらいの地位はあってほしいと思うところである.ところで某小さいものがなぜ改めて命名されているのか,そもそもこれが妥当な命名なのか非常に疑問があるが,この辺りは深堀りしないでおこう.

Rataj (1978)に描かれたウルグアイエンシス

 

 

アクアリストよ,顕微鏡を覗け!

さて,ウルグアイエンシスと所謂ホレマニーグリーンの違いとしてPellucid markingsの有無が挙げられている.これは葉の一部を切ってきてカメラの顕微鏡モードや実体顕微鏡で容易に観察できるはずなので,持っている方には是非試してみてほしい.私はAZのホレマニータイプが実家にあるだけなので今すぐ試すことはできない.すまない...

もし本当にE. uruguayensisE. horemaniiがPellucid markingsの有無で区別可能なのであれば,あるのがウルグでないのがホレマニー,あっても水上が貧弱なのは中間型,という感じで簡単にグルーピングできるはずだ.ウルグアイエンシスのPellucid markingsは上の写真に線状の白いものが書かれているので,こんなものがないことを確認できれば正解となるだろう.またRatajが書いているように,ホレマニーの水上葉が本当にPellucid markingsを欠くのかどうか(もしくは普段はあるのに簡単に欠いてしまうとか,有っても見えにくいとか)は個人的に非常に気になるところである.

ホレマニーに関してのみならず,Pellucid markingsは観察及び検体の採取が容易でありエキノドルスの分類に非常に重要であるにもかかわらず,どの種がどんな模様なのか出している人はほとんどいない.

栽培条件でコロコロ変わる些細な葉の色や葉幅や葉の成長のよじれにとらわれて不毛な闘争に明け暮れるより,よっぽど建設的な気がするのであるが...

 

まとめ

ホレマニーについて,思ったよりのど元に食らいつけたのではないかと思います.しかしこれらのエキノドルスは高額であり,買い集めることも困難です.ホレマニーとは何なのか,具体的に書いている資料も少ないように私には感じられました.

Lumper...纏めたがり屋にとって確かにホレマニーは「典型的なウルグアイエンシス」で片づけられるものなのかもしれません.しかし趣味家は分けたがり…Splitterが多いと思います.そんな時,いったいホレマニーとウルグアイエンシスは何が違うのか?日本語で読む機会はめったにないと思うので,検証する材料として使っていただければと思います.

 

ソース

Rataj, K. (1970). New species of the genus Echinodorus from South Brazil. Folia Geobotanica et Phytotaxonomica, 5(2), 213-216.

Rataj, K. (1978). Alismataceae of Brazil. Acta Amazonica, 8, 5-53.

Kasselmann, C. (2001) Echinodorus Die beliebsten Aquarienpflanzen 

Lehtonen, S. (2008). An integrative approach to species delimitation in Echinodorus (Alismataceae) and the description of two new species. Kew Bulletin, 63(4), 525-563.

Lehtonen, S., & Falck, D. (2011). Watery varieties: aquarium plant diversity from aesthetic, commercial, and systematic perspectives. Ornamental plants: types, cultivation and nutrition, 1-46.

Lehtonen, S. (2016, March). Shutting down the chaos engine—or, identifying some problematic Echinodorus (Alismataceae) types. In Annales Botanici Fennici (Vol. 53, No. 1–2, pp. 115-129). Finnish Zoological and Botanical Publishing Board.

Somogyi, J. (2017). Notes on some Rataj’s names in the genus Echinodorus (Alismataceae). Acta Rerum Naturalium Musei Nationalis Slovaci, 63, 12-22.

 

もうちょっと多角的な意見を取り入れたいので,あとで加筆したいと思っている.

Paepalanthus tortilis

流通していると聞いて何年も待って、待ちながら探しているうちに維持していた方が亡くなり、もう入手する機会はないかとまで思ったものの入手する機会を得たPaepalanthus tortilisです。株自体はいたって健康で成長も早く、枯れることより巨大化するほうが心配なくらいです。願わくば早く開花してほしいですね。

ただ現時点でL水槽の蓋に届きそうなので、開花するとなるとかなり背の高い温室を用意してあげないといけなさそうです。

脇芽も出てきました。5本くらいでしょうか。日本で手に入る数少ないPaepalanthusですから、リスク分散も兼ねてできるだけ数は増やしておきたいものです。

でもとにかく…

花、みたい。バラしたい!

 

さてボリビアンスターに一見よく似ている本種ですが、根は全く違います。

根は透明で非常に細かく、根毛が発達しています。同じくPaepalanthus属に統合されたスターレンジの根に非常によく似ており、Syngonanthus属のボリビアンスターやミカドホシクサで見られるのっぺりとした白い根や、Eriocaulon属で一般的にみられる隔壁で多数に仕切られた白い縞々の根とは全く異なります。

まぁEriocaulonやSyngonanthusにもこんな根のものがいないとも限らないのでまだまだ色々みないとですね。(少なくともEriocaulonには若干数種いることを確認済)

 

 

 

 

 

 

アマニアspサレイの花

某店にて咲いていた。

これは良いですね…

たしかにRotala densifloraにきわめてよく似ていますがどうなのか。

ちまちま情報集めつつ調べますか。小ホウが映っていないのが残念。